幻想水滸伝 あの空の果て〜14
「はあ?レパントが呼んでる?」
 目の前ではまたもシーナがラズロの料理を食べている。
 憎たらしいと、その皿から摘むと口に入れる。
「あ、ずるい!かえせよ」
「もう、喰った」
 で、レパントが何だって?
「ええと、この間のお礼に夜会を催すから来て下さいと言うメッセージです」
「お前、何時からメッセンジャーボーイになった?」
 ふんとフィルは鼻を鳴らす。
「良いだろ。暑苦しい親父が押しかけてくるより」
「お前も十分、暑苦しい・・・」
 ああもう、静かに暮らしたいんだよお。
「それは解るんだけど、親父としてはフィルに会いたい見たい話したいだからなあ」
 この間の話を聞きたいとお袋も言ってた。
「お前が報告したんだろ?」
 実は・・・
「ラズロさんの・・・あの服装がみんな見たいらしいんだよ。で、俺に当たりがきつい」
「・・・やだ・・・」
 誰が見せてやるかよ。それに、本人、嫌がるんじゃないか?
「そこの所も考慮して、仮装舞踏会だ。名目は、トラン国建国祭のイベントだ」
 あ?そう言えば、もうそんな時期だったかな?
 フィルはひいふうみいと指を数えると頷いた。
「興味無いんで忘れてた。でも、何時もは式典だけだっただろ?質素な」
「だから、今年は舞踏会をすると言うんだよ。賓客は呼ばないけど 身内でお祭りしようと言うわけだよ」
 トランの要人は殆どみんな軍人だ。一部を除いて、飾り気など無い地味だ。
「・・・それ、誰の提案だ?」
 レパントの提案とは思えない。じゃあ、誰だろう?
「あ・・・聞かない方が良いよ」
 ?と、フィルは首を傾げる。
「俺が驚くような人なんだ?誰だろう?まあ、それは詮索しないけど、ラズロは嫌だと言うと思うなあ」
 仮装舞踏会で女装しろとは。
「そこがフィルの腕の見所出し所じゃないか?」
 上手く行ったら、あの人と踊れるし。
 ぴくりとフィルが反応する。
「・・・それもありか・・ありだな!」
 ははは。この際、名目は何でも良いや。
「俺はラズロと踊るぞ!」

「ラズロ、テッドがプレゼントしてくれた服ってどんな感じ?」
 ラズロは暫し考えていたが説明するよりは絵で書いた方が楽と思ったのか、紙に書き起こしてくれる。
「で、その時の服が、このデザイン?」
 フィルはラズロの手元を覗き込む。
「へえ、これが?」
 趣味が良いねとにこにこと笑い、
「じゃあ、俺がこれ、ラズロにプレゼントするよ」
 又、着てよ。
『さっそく、仕立てて貰うか』
 フィルは急いで実家に帰る。
「おや、ぼっちゃん、珍しい。ラズロさんと喧嘩したんですか?」
 自発的に帰って来るのは最近では本当に珍しい。
「グレミオ、仕立て屋を呼んで。ああ、いや、僕から行くよ。生地を選びたいし」
「どうしました?」
 これこれこうとフィルはグレミオに説明すると、
「なら、クレオを連れて行けばどうですか?私が行くよりあの人の方がセンスが良いですから」
「そうだね。クレオ!」
 大声で呼ばれる名前にクレオが顔を出して驚く。
「坊ちゃん。どうしたんです?」
「あのね、仕立て屋行って欲しいんだ。俺と」
 何だ?と、グレミオに視線を向けると先程の話を聞かせる。
「ああ、そう言えば、レパント殿が建国祭に舞踏会を開くとか何とかアレンが言ってたな」
 感心無かったが。
「うん、それでね。ラズロに服をプレゼントしようと思って。こんな服」
 フィルは先程のデザインを二人に見せる。
「おお、へえ、これ変わってますね」
 クレオは見かけないけど斬新だと驚いている。
「これ、テッドが送った服らしいよ。100年ちょい前の流行だとか言ってた」
「女性の服にも見えますけど?」
「女性の服だったよ」
「???」
 それは何故?
「今回は仮装舞踏会らしいから、女装してもらおうと思って」
「それは・・・坊ちゃん。ラズロさんに気の毒では無いですか?」
「う〜ん、まあ、これには込み入った事情があって・・・」
と、シーナが振って来た話を切り出した。
「何か・・・騙すようじゃないですか?流石にラズロさんでも怒るんじゃないですか?」
「まあ、いざとなったら、奥の手使うから」
「奥の手?」
「一生のお願いだよ」
「・・・ま、行きましょう。坊ちゃん」
 クレオは聞かなかったふりをして、フィルの先に立った。
「クレオも服作らない?」
 屋敷の外で、フィルが声をかけるとクレオは振り返って首を傾げる。
「いえ、私は行きませんから。護衛にはまいりますが」
「まあまあ。クレオは美人だから何着ても似合うし」
 はあ?
「何か・・・企んでます?」
「違うよ。日頃の労いのつもりだよ〜」
 にこにこと笑う顔は悪戯小僧のようだ。だが、こんな笑顔が見られるなら服を作ってもらうのも良いなとクレオも思う。
「では、お願いいたしましょう」
「グレミオもパーンの分も作ろう。もちろん、僕も作るよ」
 楽しくなりそうだね。

 フィルは仕立て屋であれでもないこれでもないと生地と格闘した。
「あの色は若草色だって言ってたけど、やっぱり赤と黒が似合うよね。花柄はそのままで」
「坊ちゃん、これなんかどうですか?」
 クレオがそれらしい生地を差し出してくれる。
「うん、良いね。これの色違い無いかな?」
 解りましたと店員が探してくれる。
「色違いはクレオ用にしよう。同じデザインで。で、グレミオもそうだなあ。若草色あるかな?同じデザインでお願いしよう」
 俺とパーンはこれで。いつもの型の夜会服でお願い。
「急いで仕上げて」
「坊ちゃん、グレミオも同じデザインですか?」
 それはどうだろう?
「良いじゃない。そんなに女性ものぽくは無いよ。男性でも十分着れる」
 ああ、ラズロのサイズはここに記入してるから。余裕のあるデザインだから仮縫いいらないでしょ?
「レパントの夜会まで間に合わせたいから急いでね」
 レパント大総領の夜会と聞いて、仕立て屋は慌てて予定表を繰った。
「絶対、間に合わせて」
 凄味の聞いた声で、英雄殿に言われた仕立て屋一同は、びしりと背筋を正すと頭を垂れた。
「はい、間に合わせます」

「グレミオには内緒なんですか?」
 クレオの言葉にフィルは人差し指を口の前に立てる。
「そ、内緒。パーンが喜ぶと思わない?」
「・・・まあ、そうですねえ」
「ダンス出来るかもよ」
 クレオはむずむずと口元を緩ませた後に爆笑した。
「ああ〜?あのパーンがですかあ?グレミオとお?ぶぶ」
「まあ、笑えるよねえ。でも、俺はラズロと踊るぞ」
「ラズロさんなら解るんですけど、グレミオとパーンですよ。ああおかしい」
 ひいひいと笑いが止まらないクレオだ。
「クレオも誰かと踊れば良いよ」
「え?私ですか?でも、相手がいないですよ」
「留守番はさせないよ。クレオもパーンもグレミオも一緒に行くよ」
「はは、ありがとうございます」
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