幻想水滸伝 | あの空の果て〜13 |
「さあて、やりますかあ?」 ところで、この魔法はどれくらいで消えるの? 「後、数十分と言う所かな?」 「じゃあ、こいつらは縛り上げておきましょうか」 せっせとフィルは盗賊を縛り上げる。その間、ラズロは檻の中を見ていた。 「竜は一頭だけだね。まあ、そうそう竜がいるわけは無いから今回は特別だけど」 後は、小型の稀少動物か・・・。 「盗賊団じゃなくて密漁じゃないの?フィル」 「へえ、密漁団って初めてみたな。どんなの扱ってるんだろう?」 「群島では人魚の密漁があったよ。剥製にするんだって」 げげ、悪趣味。 「クレイ商会は扱ってたみたいだ。僕の知り合いの海賊が言うには、僕が騎士団にいた頃が一番乱獲が酷かったらしい」 助けたけど死んじゃった人魚も多かったんだって。 「嫌な話だ。しかし、竜なんて誰が買うんだろ?やっぱりハルモニアかな?」 「子竜なら買うだろうね。大人の竜は手に負えないからね」 「でも、良かった。ヨシュアも喜んでるよな」 「そうだね」 早く、帰らないと。 焦るフッチだが、慣れない道だ。なかなか足は進まない。 そんな時、目の前に白い姿の女性が現れる。 びくりとフッチは子竜を抱いて後ずさるが、子竜の方が反応した。 嬉しそうな鳴き声だ。 『良かった。私の可愛い子』 確かにフッチの耳にそう聞こえた。 ふわりと白い影が距離を取り、手招く。 「ついて来いと言うのかな?」 小竜は小さく鳴くとその影を追いかける為にフッチの手からあがく。 「わ、解った。ついていくから暴れちゃ駄目だよ」 白い影の案内で程なくフッチは麓についた。 「あ、ありがとう」 いいえと言う風に白い影は首をふると、かき消すように消えてしまった。 「ねえ、お前を助けてくれたのはあの人?」 きゅいんと小さな鳴き声にフッチは再び頭を下げる。 「ありがとうございました。お預かりします」 「さあて、フッチはどうしてるかな?」 フィルの言葉は至ってのんびりだ。賊を縛り上げた後、フィルとラズロは茂みに隠れる。 「この人数は少なすぎるな。何処かにまだいるはずだよね」 「この檻の量から言うなら、あと、十数人はいるはずだね」 「狩りにでも行ったかな?」 「シーナ君は本当にこの賊を知らなかったのかな?こういう輩は何時も移動してるから情報が入りにくいとは思うけど」 「と言うより、こんな荷物を国外に出せると言う穴を指摘したいよ。国境や間道の警備の見直しだな」 フィルにしては珍しくシーナを養護する。 「優しいねえ」 「シーナは何時も国にいるわけでは無いから。今回の事もたまたま国にいて、俺に話しやすいのがシーナだっただけだ。それにあいつは無冠だから関係無いと言えば関係無い事だ」 フィルはシーナがレパントの手足となってあちこちに出向くのを知っている。 「良い友達を持ったね」 「・・・まあね」 友達と聞くと胸が痛む。 『テッド・・・』 がちゃがちゃと賑やかな音が静かな森に混じり近づいてくる。 「帰って来たか」 「さて、どうする?」 「決まってるよ」 そうだね。 「「じゃあ行きますか!!」」 宵闇に紛れて悲鳴や怒声が聞こえる。 ある者は、黒い影に襲われ、ある者は闇より伸びた焔に逃げまどう。 『相変わらずな技量だよね』 まるで蛇が地面を這うように、魔法の焔が追い立てる。 焔はどんどん逃げ場を失わせ、逃がさないように一つの円となっていく。 「流石だね」 その円の中にフィルは躍り出ると次々と賊を打ち倒して行った。 「お見事」 にこりと二人は笑い合うと倒れている賊を見渡した。 「はあ?幽霊が助けてくれた?」 翌日、昼すぎまで惰眠を貪り起きてきたフィルにフッチが白い影の事を話す。 「そうなんです。麓まで案内してくれて」 「そう言えば、何処かの怪談にそう言う話があったよ」 ラズロはフィルにお茶を勧めてくれながら語り出した。 「ええと、捨て子を育ててくれた幽霊。毎日毎日、夜中に飴を買いに来るご夫人がいるんだ。不信に思ったお店のご主人が後を付けていくと、墓場にでて、そこに飴をしゃぶっている赤ん坊がいた。子育て幽霊と言う話だよ」 「じゃあ、あの子を育ててくれてたのはあの白い影なんですね」 フッチは興奮してラズロを見る。 「そうじゃないかな?」 「なるほどねえ。どうりで若い子ばかりがいなくなってたわけだ」 「え?何でです?フィルさま」 「多分、お母さんじゃないかな?あの幽霊もそう言う年頃だったんじゃないかと思うだけ」 後に聞いた話によるとあの岩だなは、昔の安産祈願用の祭壇があった所だそうだ。 キリルが言う事によると、 「多分、複数の思念が合わさって出来た影なんじゃないかな?年頃の女性の。だから、同年代を呼んだんじゃないかな?」だった。 「とにかく竜が無事で良かったな」 「はい」 「淡いオレンジの竜だね」 ラズロは愛おしそうに子竜を撫でる。 『あ、今、思いだしてる』 自分もそう思った。あの色は彼だ。 「テッドの色だね」 『ああ〜やっぱりい』 「じゃあ、名前をもらってテッドと付けましょうか?」 「良いの?名前決めても」 「はい。名前が無いと不便ですから。暫くは僕が面倒を見る事になると思うので」 じゃあ、テッド。 「と言うのは可哀想だから、止めるよ。あんなのに似たら、根性曲がっちゃって困るからね」 「え?」 「そう、彼は根性曲がってた。天の邪鬼だった。そう言うのは勘弁して欲しいからね」 ラズロは笑い、フィルの右手を取る。 「そう思うだろ?」 その言葉は誰に言った言葉だろう?と、フィルは何だかこそばゆい気持ちになる。 「確かに、テッドは根性悪かった。だから、騎士団に戻って付けてもらえば良いよ」 「でも・・・」 「あ、じゃあ、この子、シーナ君にも似てるからシーナってどう?女の子だけど」 「!!!え?女の子なんですか??」 叫びは同時に上がった。 「あれ、フッチは解らなかったの?女の子だよ」 知らなかった。 「シーナかあ。それも良い名前ですね。提案してみます」 「ところで、この子、今まで一体、何を食べてたんだろ?」 フィルは疑問だと首を傾げる。 確かに、あの幽霊は何を食べさせてくれてたんだろう? 「ミルクなんかないしな。何なんだろう?」 首を傾げるフィルにラズロはこれじゃない?と、瓶を見せる。 「これ、蜂蜜?」 「まあ、子育て幽霊だからね。あそこのお供えにでもあったんじゃないかな?これは腐らないしね」 「なるほど」 「じゃ、食べさせて見る?」 ラズロの提案で、フッチが蜂蜜を手に垂らし子竜の目の前に出す。 「わ、食べた。わわ・・・すごく食べてますよ」 「へえ、じゃあ。ミルクにも入れてあげようね」 取り合えずは元気にならないと。 |
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