幻想水滸伝 あの空の果て〜16
 聞きたい事があると言いつつ、フィルはグラスを傾けているだけだ。
「ナナミの事、ありがとうございます」
「いや、こちらこそだよ。色々してもらったのはこちらの方だから」
 ラズロはリオウに頭を下げる。
「で、ナナミちゃんはどうしてるの?」
「はあ、あの・・・」
「どうしたの?」
「いえ、あの、勉強するんだって、クラウスさんの所にいるんですよ」
 ナナミが勉強?
 フィルが首を傾げる。
「はい・・・良いのかなあと思うんですけど・・・」
 フィルは暫し考えていたが、そうかと頷いた。
「僕が都市同盟に帰って来てしまったから・・・」
 そうだね。でも、
「ナナミはきっと自分の出来る方法で故郷を守りたいんだよ。だからクラウスの所に行ったんだ」
 後悔しない為にね。
「・・・僕もそう思うんですけど、又、巻き込んでしまうんじゃないかなあと思って・・・」
 だから今日、ここに来ちゃったんです。
 成る程ね。
「俺は兄弟いないから解らないんだけど、ラズロはどう思う?」
「そうだねえ。ナナミちゃんは弟離れをしちゃったんだね。君がもう未来を選んじゃったから。ねえ、リオウ。君はもう僕らと同じなんだ。これを言うのは酷なんだけど、君はもう変わらない。しかし、ナナミちゃんは年を取って行く。五十年後にはもうこの世にはいないかもしれないよ?」
「そ、それは・・・」
「だから、君に何か残したいんだと思うよ」
「え?」
「クラウスは、ハイランドに帰りたいと言っていた」
 フィルは静かに言葉を繋ぐ。
「クラウスが?ハイランドに?」
「ああ、ハイランドはクラウスの故郷だ。平和を願う心は同じだ」
「・・・そうですか。じゃあ、ナナミはハイランドに帰るんだ・・・」
「嫌かい?」
「あ、いえ・・・。嫌と言うわけでは・・・ただ、そうですね・・・僕の方が置いて行かれちゃったような気がして・・・」
 ラズロはリオウに手を伸ばすと、抱きしめた。
「姉って存在はね、いつも弟を守ってくれるんだよ。ナナミは君の立派な姉上だ。誇れば良いよ。それが彼女には一番嬉しい」
「・・・ありがとうございます。ラズロさん、フィルさん」
「まあ、クラウスさんと結婚するのは又、別問題だけど」
 はあ?
 がばりとリオウは起き上がる。
「え?え?ナナミはクラウスと?結婚?」
「まあ、どうだか解らないけど。年頃なんだから応援しても良いんじゃない?」
 ラズロの言葉に、リオウは唖然と固まっている。
「・・・えええ・・・でも、その、あのクラウスさんと?あ、いや、と言うわけでは無いですけど」
「あの二人の性格上はぴったりだよな。ナナミの性格に対応できるのはそんなにはいないぞ」
 フィルは意地悪げに笑うと、乾杯しようとグラスを渡す。
「な、何にです?乾杯」
「そりゃあ、クラウスとナナミにだよ。二人の未来にだ」
 え〜。
「フィル、その辺にしときなさい。僕も姉が結婚なんてすると思うのは複雑だったし」
「そう?」
「君もクレオさんが結婚したら?」
「嬉しい」
 間髪入れずにフィルは返す。
「嬉しい。クレオが結婚したら俺は凄く嬉しい。・・・例えば・・・リノとでも・・・俺は嬉しい」
 そっかとラズロは笑う。
「じゃあ、このグラスはクレオとリノのにしよう」
 乾杯。
「ぼ、僕はナナミとクラウスに乾杯します!」
 やけのようにぐいっとグラスをリオウは干した。
 そして、馬鹿野郎〜と、拳を突き上げるのだ。
「・・・でも、あれだね。本人達にその気が無ければどうにもならない話だけどね」
「まあね」
 一人燃え上がってる背中にラズロとフィルはそっと苦笑を零した。
 裏を読むのはまだまだ若いリオウだ。
 わざと煽ったとは微塵も思ってはいないらしい。
「でも、リノでも良いんだ?」
 こっそりと囁かれた言葉に、フィルは頷く。
「だって、あの二人、浮いた話無いんだもん。可哀想じゃない?あの馬鹿っプルといるのに」
 グレミオとパーンの事だ。
「・・・まあ、リノはちょっと変わってる子なんでクレオさんのようにしっかりした人が相手なら嬉しいな」
「OK。保護者の許可ももらったし〜。焚きつけよう」
 ん、でも、ほどほどにね。
 解ってるよ。
 クレオが時々ラズロの事務所に行ってる事は知っている。それは主にマクドール家の交易関係の類なのだが、某かの手伝いもやっているらしい。
「クレオはまあ、ほら、一生独身でいるなんて気でいるから・・・アレンもグレンシールも近寄りがたいよね」
 成る程。
「何時までも姉にはしておけないよ」
 クレオの幸せを考えて貰わないと。

 コンコンとノックの音がする。
「坊ちゃん、みなさんが何処においでかとお探しですよ」
「ラズロさまの事もお探しです」
 クレオとリノだ。
「はあい、今、行きます。ちょっと食事してたんで」
 じゃあ、行こか。リオウ、フィル。

「今日のクレオは美人だったな。いや、何時でも美人なんだけど」
「そうだな」
 そう言うのはアレンとグレンシールだ。
「・・・そう言えば、何でラズロ殿とクレオとグレミオは同じデザインの服なんだ?」
「フィルさまの趣向だろう?ほら、みんなが余計な事を言うから」
「ああ?ああ、ラズロ殿の女装を見たいって話しだよな」
 ただの冗談だったんじゃないのか?
「いや、女性陣で盛り上がっていてな。フィルさまも断りきれなかったんじゃない?」
「ああ、そっかあ・・・」
 しかしなあ。
「何だ?」
「ああやって見るとクレオも女性なんだなあと思って」
「・・・だな」
「で、あのクレオと踊ってた人は誰だっけ?」
「彼はラズロ殿の部下の人だったはずだが。名前は・・・そうそう。リノ。群島諸国連合の初代と同じ名前だ」
「へえ、ラズロ殿の?クレオも猫かぶりか?」
 軽口を叩いて見るアレンだ。
「まあ、あのクレオだから直ぐに化けの皮は剥がれるだろうけど、でも・・・」
「でも?」
「案外、知ってるんじゃないかな?あの青年は」
「かもな」
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