幻想水滸伝 あの空の果て〜11
「しかし、何でまだ女装?」
 嬉しいけど。
 フィルの問いかけに何となくとラズロは返す。
「いや、条件が同じな方が又、会いやすいかなと思って」
 フィルはすでに普段の姿だ。
「・・・驚かせるかなと思って。普段の姿だったら」
「?」
 解らないとフィルは首を傾げる。
「いや、笑い話なんだけど、何だか怖がり?なようだから」
 幽霊が怖がり?そんなわけは無いだろう。
『あ、でも、俺の事は恐いかな?ソウルイーターだもんな』
 時間はまだ昼間だ。日が高い間に昨日の岩だなを調べる為だ。
 その岩だなは昼間見れば、何かの遺跡と言うか祭事跡に見えた。
「昔の祭壇かな?」
 ラズロは調べまわった後に頷く。
「どうやらそうらしいね。所でこの踏み固められた後は、最近の物らしいんだけど」
 フィルは地面を触る。
「うん、わりと・・・大人数だね。例の盗賊団かな。でも、こんな所で何を取ってまわるって言うんだろう?」
 何も無いと思うんだけど?
「ここから何かを動かした事だけは確かだよね」
 ラズロは顎を撫でると考え込む風情を見せるが、解らないと首を振る。
「フィルは何だか解る?」
「さあ。でも、あの幽霊さんに又会えば解るかもしれないね。もっとも俺達は幽霊さんの声を聞けないけど・・・」
 その辺りが困るよね。
「紋章持ってても役に立たないんだから」
 ラズロも同意する。
「だよね。キリルがいればね。僕はせいぜい声くらいしか聞いた事無いから・・・」
 え?
「声聞く事出来るんだ?」
「ごくたまにだよ。紋章の影響だと思うけど。僕は生きてる人の方が良く聞こえる体質なんでね」
 ああ、なるほど。
「手がかりも無い事だし、ちょっと辺りを調べてみようか。盗賊の事も気になるし。根城は何処だろうね」
 フィルはシーナからもらった地図を広げる。
「テンプルトンの地図の写しだよ。この辺りの地形がわりと細かく書いてある。さて、川はどこにあるかな?」
 ここから、この方角か。
「二人で行く?」
「その方が身軽でしょ?俺とラズロがいれば一個師団より強いよ」
 フィルは笑うとラズロの顔を覗き込む。
「あくまで確かめに行くだけだよ。盗賊団が何をしてたかしっぽを掴むだけにね」
 解ってるって。


 だが、二人は山中で以外な人物に出会う。
「!フッチ!」
 フィルの声にびくりと振り返ったのはまごうことなく、フッチだ。
「何でこんな所にいるんだ?」
「ええ、フィルさま・・・」
 フィルで良いよ。
 どうしようかと迷いな目でフッチはラズロとフィルを見る。
「何か特殊な任務なら言わなくても良いよ」
 ラズロの言葉にフッチは困ったと言う風情だ。
「特殊な任務ですけど、お二人に話せない事では無いです。ええと、竜を探してます」
 ?と、二人が顔を見合わせる。
「はい。あの、僕のブライトの事は知ってますよね」
「うん、フッチが拾って来たんだよね。竜洞で産まれた竜じゃ無い」
 はい。
「あのそれで、僕ははぐれ竜に詳しいと言う事で、年に少しだけ竜洞の外で産まれた竜を探しに行くんです。幼体の竜なら竜洞で育てる事が出来ますし」
 僕は外の世界にも慣れてますし。
「へえ、そうなんだ。で、何でこんな所にいるの?」
 フィルは辺りを見回すが竜がいるとは思えない。
「ええと、この辺りで竜の子どもがいるらしいと言う話を聞いたんです。まだ、ほんの子どもらしくて」
 それは何時?
「出入りの商人から聞いた噂話なので、ほんの一週間ほど前かな?それから僕は慌てて出て来ましたから」
「女性が行方不明になって翌日に戻ってくると言う話は聞いた事が無い?」
 フッチは首を傾げる。
「いいえ。僕が聞いたのは竜の鳴き声を聞いたと言うだけです。はぐれ竜の情報は竜洞は何時も集めてますから」
「・・・竜か・・・」
 ラズロは暫し考えていたが、これは推測と前置く。
「例の盗賊団が絡んでいる可能性が大きいね」
「でも、竜なんか困るだけだろ?」
「・・・そうでもない。しかるべき所に買ってもらうと言う道もある」
 しかるべき所?
「そうだね。ハルモニアとかかな」
 ラズロはフッチからちょっと視線をずらした。竜騎士であるフッチには聞かせたく無い言葉だ。だが、フッチは納得したように頷く。
「そうですね。ハルモニアのように紋章学に長けた場所では竜を飼育する事も可能でしょうね」
 それだけの知恵があるだろう。
「ともかく俺達は盗賊団の塒を探す事にしてたんだけど、フッチもそれで良い?」
「あ、はい」
 そうだ。
「幽霊が教えてくれた場所、フッチにも見てもらおうよ。何か解るかもしれない」
「幽霊?」
 フッチは本当なんだろうか?と、ラズロを見るとラズロはこくりと頷く。
「幽霊か精霊かは解らないんだけど、何だか助けて欲しいって感じだったんだ」
「解りました。案内して下さい」

「これは・・・」
 フッチは暫しその場所を廻っていたが、小さな本当に小さな欠片を拾い上げる。
「これ・・・竜の鱗です」
 小指の先にもみたない小さな鱗だ。
「産まれたばかりみたいですね」
「じゃあ、竜は本当にいたんだ」
「ええ、どうやらここで産まれたようですね」
「産まれたばかりってこれくらいだったよな」
 フィルはちょっと手を広げて見せる。
「そうなんです。だから、保護が無いと死んでしまうか・・・生きていても僕らとは言葉を交わせない存在になってしまう」
 ぽんとラズロはフッチの肩を叩く。
「大丈夫。ちゃんと生きてるよ。こうなると盗賊団を探す方が先決だよね」
 さて、ねえ、フッチ。
「はい?」
「ちょっと乱暴だけど呼んでみるか」
 ラズロは懐から小さな笛を出す。
「何ですか?」
「これはファレナで竜馬を呼ぶ時に使う笛だよ。僕が吹くから君はもし声が聞こえたらどの方角か確かめて。本当はかく乱用の笛なんだけど」
 竜の声を聞き分けられるのは君だけだからね。
 そう言って、ラズロは笛を吹き始める。
「音がしない?」
「ええ、人には聞こえない音です。フィル。魔物や動物にしか聞こえない」
 ざわざわと森が騒ぎ始める。
 ぎゃあぎゃあと何かの獣の声がする。
 その中でラズロは笛を吹き続ける。
「!」
 フッチが耳を塞ぐ。
「聞こえた?」
「はい。この方角です」
 フッチが示す方向をフィルが地図で確かめる。
「ここかな」
 フィルは一点を指す。
「この方角で川沿いならここだ」
 行こう。
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