幻想水滸伝 あの空の果て〜10
 フィルとラズロは女性達のいなくなったと言う時間に合わせ家を出た。
「まさか霧の船の導師のような輩じゃないよね」
 呟いた言葉にフィルは首を傾げる。
「それ何?」
「ああ、ええと、テッドがいた船の船長」
「ああ、あの話」
 確か、テッドが紋章を外してた時に乗ってた妖しい船だよね。
「じゃあ、紋章を調べてるの?今回の事」
「だとしたら罠だよね」
「でも、罠だとしたら俺達が出て行かないと解決しないよね。結局は来る事になるんだから同じだよ」
 うん、まあそうなんだけど。
「霧の船の船長は、自分で行きたいと思うものしか連れて行けないみたいだ。テッド曰く、紋章を手放す決意をしないと紋章を外す事は出来ないみたいだし」
「ふうん。随分と制約多いな。じゃあ、テッドが手放したくないと思えば奪えなかったわけだ」
「だろうね。実際、ソウルイーターはテッドの元に戻ったし」
 テッドが返してくれって言うとね。
「それはそうと、フレイルの姿は何だか色っぽいなあと思うんだけど?」
 そう?と、ラズロは首を傾げる。
「・・・ええと・・・口説いてるつもりなんですけど」
 ええ?そうだったの!
 と、ラズロは目を見張る。
「うわあ。何か久々だったんで、ぴんと来なかったよ。ごめん」
「・・・そう?」
「あ、でも、ここじゃあ遠慮したいなあ」
 むむ、任務遂行中と言う事かと、フィルは考えるがラズロの意見は違った。
「人気がなくても野外はねえ。後であちこち痛いし」
 今度はフィルが目を見張る番だ。
「え?違ったの?あ、ごめんね。いや、口説いてるって言ったんでそのつもりなのかなあと思って」
 はは、どうも年増は勘違いで駄目だねえ。
『何だかテッドとの関係が透けて見えるような気がする・・・テッド・・・お前・・・野外プレイか?』
 いや、そんな事ばかりでは無かったと紋章は返しては来ないが。

「しかし、何も無いね。もう、帰る?」
 ランプの明かりだけが頼りになった頃、ラズロはフィルに提案する。
「そうだね」
 引き返そうとして、ラズロはぴたりと止まる。
「・・・どうやら、帰れないようだね」
 瞬時に距離が縮まらないのを理解したらしい。
「帰ろうとすると帰れないと言うわけか。なるほどねえ」
 何が出ても良いように武器だけは二人とも持っている。
 ひたひたと冷気が足下に寄せて来る。
「霧か・・・」
 白い霧が二人を包むように上がってくるとふいにその中から手が現れた。
「「!」」
 身構える二人に手はまるで救いを求めるように伸ばされる。
「・・・何か話したい事があるの?」
 ラズロの問いかけに彼らの前に、白い影が現れる。
 人の・・・女性の姿のように見える。
「まいったなあ。キリルの分野みたいだね」
 目の目にいるのは幽霊の類だろう。
「小姑はまだ帰って来ないでしょ。どうしよう。俺は幽霊の声なんか聞けないよ」
 お手上げとフィルは両手を上げる。
「シーナの幽霊事件は本当だったんだな。しかし、どうしよう」
「何処かに連れて行きたいのかな?どうかな?」
 二人の会話が解ったのかその白い影は一点を指さす。
「あっち?」
「何かあるのかな?」
 ラズロはランプを持ち上げると闇を照らす。
「行こうか。フィル」
「だね。この際、毒を喰らわば皿までだもの」
 そうだね。案外、案ずるより産むが易しだ。


 霧が出て来たので視界が利かなくなるかと思えば、そうでも無かった。
 結局、白い影は消えてしまいそれに合わせて霧も消えてしまった。
 指し示された方向には、岩だながあった。
「お墓かな?」
 フィルが周りを調べていたが、墓のようでは無い。
「何かの後が・・・みたいだけど」
 だが、そこは踏み固められて潰されたようになっている。
「何だろうね」
「解らないなあ。魔物?」
 しかし、もう夜だからなあ。どうしよう。
「しょうがないからここで夜明かしにしようか。明日になって詳しい調査をしよう」
「それしかないね。あ〜でも、別に女装する必要も無かったのかもしれないなあ」
 こんなにあっさりと出てくれたんだから。

 明け方、しゅっと微かな音がする。
 二人は身構えると、武器を抜く。
「来た」
「ああ、来たね」
 手加減は無用だね。
 そうだね。
「「じゃあ、フルボッコで」」
 嬉々としてマントを脱ぎ捨てると、ラズロとフィルは飛び出した。
 後は悲鳴だけだった。

 ラズロとフィルが捕まえたのは、この辺りを根城にしている盗賊だと言う。
 あまり聞かない話なのでどうやら最近流れて来た集団らしい。
「ああ、賊?そんな報告は無いなあ」
 取り敢えずの報告を聞き、事の処理にあたるシーナは首を傾げる。
「斥候を捕まえておいたから後を頼む」と、フィルは取り敢えずシーナに仕事を押しつけた。
 ラズロが作ってくれた温かい食事を食べながらフィルは昨日の事を振り返る。
「あの幽霊は結局何だったんだろうな」
「・・・そうだね。彼女?は何かを頼みたかったように見えたんだけど・・・」
 こんな時にキリルがいてくれたら良かったんだけどね。
「だよな」
 ち、役たたずと八つ当たりでフィルは愚痴る。

「くしゅん!」
「キリルさん、大丈夫?」
「ああ、アス大丈夫だよ。大方、フィルが僕の悪口でも言ってるんだろう」
「フィルさんが?・・・遠いね。ここからは」
「ああ、遠いね。グレッグミンスターは」


「え?幽霊にも会ったって?」
 フィルの話を聞いて、シーナも唖然としている。
「本当にいたんだ」
「と、言うわけで人間の方はシーナに任せるから俺達は幽霊の方を担当するな」
 ええ〜と不満げな声のシーナだが、じゃあ幽霊の方にする?と言われ、暫し考えた後、首を振る。
「美人な幽霊だったけど?」
「美人でもなあ。まあ、野郎の方を担当しておくわ。で、今日も行くんだろ?」
「まだ、依頼を果たしてないからね」
 にこりと笑うラズロはまだ女装のままだった。
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