| ヒカルの碁 | 君の花精次編さらさらと〜1〜5 |
| さらさらと〜1 「やっぱりここだったのね」 精ちゃん。 緒方が顔を上げると、そこには智の姿があった。 「やっぱりって?」 「気がついてなかったの?今日は・・・でしょ?」 緒方は今更気がついたと、惚けた顔で智を見る。 「ああ、そうだったな」 「電話してもいなかったから、ここだと思ったのよ」 そう、ここは私達の原点ですもんね。 小高い山の上から校舎と校庭が見える。 緑の木々の間から、暑い夏の日差しが緒方の上に落ちている。 「どうぞ」 智は冷たい缶コーヒーを緒方に握らせると、隣に座る。 「ねえ、精ちゃん」 緒方はリンクプルを引くと喉を潤した。 「・・・精ちゃんは・・・」 「何?智」 肩を叩かれた精次はくるりと振り返る。 「おはようって言ったのに、挨拶が無い。どうしたんだ?一体」 あ・・・ 「ごめん。ぼっとしてた」 精次はにこりと笑うと、おはようと智の顔を覗いた。 「おわあ、役得役得。朝から精次の惚けた顔と笑顔が見れた」 「何言ってるんだか・・・」 呆れたと精次が肩を竦めるのに 「いやいや、貴重な笑顔だった」 そう言えば、同好会の話はどうなった? 「三輪さんとのやつだね。将棋・囲碁同好会。何とか通りそうだよ。予算は無いんだけど、教室貸してもらえるんだ。それさえ通れば、碁盤と碁石は俺が調達するし、三輪さんが将棋盤と将棋駒は調達してくれるって」 三輪とは高等部の一年生だ。 つい先日、 「将棋と囲碁で同好会を作らないか?」と、精次に持ちかけられた。 返事に困っていた精次だが、教師陣で後押しをしてくれる人が出たので、受ける事にしたのだ。 「精次は囲碁が上手いからな」 「それ程でも無いよ」 と返すが、この地点で精次は既に塔矢 行洋の弟子になっていた。 先々、有望と見る者も多々いたのだ。 「でも、精次が講師をするとなると・・・」 智はがしりと精次の肩を掴む。 「俺は不安だな」 「はあ?何が。いや、俺も人に教えるのは初めてだから・・・確かに上手く教える事が出来るか出来ないか解らないけど・・・」 やっぱり、中学一年じゃ駄目かな? 「・・・いや、教える方は大丈夫だよ。でもなあ・・・」 問題は他にあるんだとは、智は言わなかった。 『こいつ。割と・・・だからなあ。鈍いわけじゃないんだけど、どうも無防備なんだよな』 「将棋部だけじゃ人数が集まらないから、囲碁部も合併して同好会を作ろうと言われた時は、ちょっと困ったんだけど、師匠に話してみたら、良い経験になると言ってくださったから」 不安だけど、これも経験だから。 「心配する事ないよ」 「俺もちょくちょく見に行って良いか?」 「そりゃあ大歓迎だよ。是非、クラブの人とも来てよ」 「あ?ああ、そうだな」 智の加入しているクラブは、家庭科部だ。 家庭科部と言うと弱小クラブと思えるが、結構大人数なクラブだ。 このクラブは中学高校と共通クラブの一つで、総勢50人程を抱えている。 とにかく何でもするクラブで、飯ごう炊さんからガーディニング、ペンキ塗りやお菓子作りと幅広い。 そして、このクラブは何と、進藤 精次ファンクラブと言う別名がある。 きっかけは中学に入学して智がこのクラブに見学に行った時に、たまたま精次も一緒だった事から始まる。 入部した智はまっさきに上級生に呼び出しをうけた。 緊張した面持ちでそれに応じると、 「今日から進藤 精次ファンクラブを作る事になった。お前は、顧問だ」と、勝手な烙印を押されてしまったのだ。 ただの付き添いで来た精次なので、入部はしなかった。その事がいたく残念に思った面々の発案だった。 「やはり、花は必要だ」 「はあ、花ですか?」 「そう、進藤 精次には花があると思わないか?」 振り返れば、確かに精次はこう、人には無い鮮やかさがあるなあと、智も今更ながらに納得をする。 「で、具体的にどう言う会なんです?」 「彼の生活を守る会だ。彼の生活を乱す不埒ものを排除する会と言う方が正しいな」 ちょっと唖然とした智だったが、まあ、そう言う馬鹿な会も楽しいだろうと、早速引き受けた。 「良いですね」と。 しかし、花のある精次があっと言う間に近所の女子校からも注目される存在になるとは、智もその時は考えなかった。 将棋・囲碁同好会の滑り出しはかなり良かった。 同好会なので、気楽に打ちに来て欲しいと、精次と三輪が触れ回った為だ。 名簿に名前を書くだけで、教えてもらえると言うのはお手軽だと、教師陣まで繰り出す始末だ。 「二面打ちまでなら出来ます」と、精次もなかなかに楽しんでいた。 三輪と言う男は、社交的で人好きのする男だった。 精次はこの男が大好きだった。兄弟の多い精次だが、三輪のように年が近いものはいない。 将棋と囲碁と種類が違っても共通する所があるのだろう。 三輪とする話しは精次の楽しみだった。 「そう言えば、何で俺を誘ったんです?」 三輪さんだったら、一人でも同好会出来そうですけど? 「そんなわけないだろ。俺は自分のほどほどをわかってる」 それにどうせなら、誰か相棒がいて楽しい方が良いじゃないか。 「碁会所のように楽しい場所にしたかったんだよ」 さらりと言われた言葉に、精次はいたく感動した。 琴線に触れた言葉を残してくれた三輪だが、晩秋の訪れとともに転校する事となった。 「悪いな。俺が誘ったのに」 「大丈夫ですよ。同好会は残します。俺は将棋は出来ないけど、将棋好きの吉田先生が覗いてくれるって言ってますし、他の先輩方も来てくれるそうです」 一人でも大丈夫ですよ。 「寂しいですけど」 「何時か、又、一緒に・・・ええと、そう言えば俺は囲碁を打てないんだったな」 そうだな。 俺、囲碁も憶えるよ。 「じゃあ、俺も将棋憶えます」 精次の言葉に三輪は首をふる。 「精次がプロになったら、俺にも指導してくれよ。だから、がんばれよ」 「はい」 さらさらと〜2 精次は三輪がいなくなってから、一人で同好会をしていた。 元々それほど忙しくは無い同好会だ。 囲碁が好きな者が来て打ち、将棋の好きな者が来て打つ。その中には、家庭科部の姿が何時も数名混じっていた。 時には智がやってきて、部活で作った菓子などを差し入れしてくれる。 「なあ、精次、一人で大丈夫か?」 「ん?心配性だなあ智は」 何も無いよ。 「そうか?」 まあ、心配しても何なんだけどなあ。 「あの頃の精ちゃんは、妙に脆く見えたのよ」 三輪さんがいた頃は、安心できたのにね。 智は煙草を取り出すと、緒方に差し出す。 緒方はそれを受け取るとライターを出した。 智は精次と小学校からの馴染みだ。と、言っても智は6年生からの転校なので、その時からの付き合いだが。 人当たりが良い精次に、智は直ぐに仲良くなった。 精次が行くと言う中学に智も一緒に進んだ。 中学に入って、精次は直ぐに塔矢 行洋の弟子になった。行洋を紹介してくれたのは、桑原だ。 桑原は精次の才能を早くから見抜いていたので、当時から注目であった行洋に精次を推薦したのだ。 「もうそろそろ1年生も終わりだな」 同好会の部屋を見渡して、精次はため息を吐いた。同好会はそれなりに楽しかったが、精次が何時も感じている隙間を埋める程では無かった。 三輪がいた時はわくわくと感動があったように想うのだが。 精次は大抵何をしてもそつなくこなし、学校の成績だって悪くない。加えて顔良し性格良しと言うわけで、学校内外でのファンも多かった。 しかし、どうも元来の性格なのか細かい事などどうでも良いのか、そう言う自分を見る目に気がつかない天然ボケだった。 「今から考えたら解るけどね。ヒカルちゃんがいないから、何でも色褪せて見えたのね」 智の言う事は正しい。 精次にはその頃が、無色に見えた。 今の精次を見れば、そこそこ練れた一筋縄ではいかない性格だ。だが、その頃の精次は、端から見ても如何にも「守ってやりたい」と想わせるような姿に見えた。 一言で言えば、健気に見えたのだ。 精次は弱い人間ではなかった。囲碁を学び、内面と向き合う力のあった精次は、強固な精神を持っていた。 揺るがないと言う強さは、智のような精次を好きなものから見れば支えてやりたいと想うが、そうでないものから見れば、その強さを羨ましく妬ましく想う。 そう、それが、気に入らないと言う人物もいたのだ。 きっかけは、春休みに入る前の事だった。 その日、精次は一人で同好会の部室にいた。同好会なのに部室をもらえると言うのは破格の扱いであるが、教師陣がちょくちょく使うのが優遇されている理由だ。 精次は教える事が出来る程に強かった。 「今日は誰も来ないな」と、そろそろ帰ろうと思った時に、誰か入ってきた。 「お客さん?」 精次の声に彼は顔を上げる。 「ああ、ここに名前を書けば良いんだよな」 精次は頷くとノートに近寄って、指を指した。 さらさらと鉛筆の音がする。 三輪 要(みわ かなめ) 「もしかして、三輪さんの兄弟?」 ふと、漏れた言葉だ。 「ああ、従兄弟だ」 「そう、知らなかったなあ。三輪さんに従兄弟がいたなんて。同じ学校に。あ、じゃあ、将棋なの?俺、囲碁しか出来ないんだけど」 「いや、囲碁の方だ」 精次は碁盤を整えた。 「置き石を置く?」 「いや、いらない」 その言葉通り、精次は置き石をしないままに打ち始めた。 終局後、 「進藤君は強いんだな」 「まあ、一応。プロの人に師事してるから」 「君もプロになるのか?」 「まあ、一応、そのつもりだけど、成れるかどうかは解らないよ。わりと狭き門なんだ」 「ふうん」 三輪はそのまま、部室を後にした。 「又、きてくれると嬉しいな」 その背中に精次は声をかけた。彼の従兄弟の三輪が思い出されて嬉しかったのだ。 さらさらと〜3 「へえ、そうなんだ。あいつ、三輪さんの従兄弟なんだ」 智はその話を聞いて、以外と言う顔をする。 「精次はあいつの事知ってた?」 「え?」 「あいつ、隣のクラスのやつだよ」 「あ?そうなんだ」 そっか隣のクラスかあ。 しかし、智は浮かない顔だ。精次はいぶかしく思って、智の顔を覗き込む。 「どうした?智」 「いや、別に何と言うわけじゃあないんだけど。あいつ人付き合いが悪いんだよ。友人もいないんじゃないかな・・・」 何だそんな事かあ。 「じゃあ、ここの同好会は良いんじゃない?だって、色んな人が来るからな」 ふんふんと精次は楽しそうだ。 「あいつは、三輪さんじゃないよ。精次」 智が呟いた言葉を精次は聞き逃した。 「え?何か言った?智」 「いや、何でも無い」 自分の嫉妬だと智は思った。だから、智はそれ以上、何も言わなかった。 何か言ったとしても、何も言えないのも事実だ。 この笑顔が曇らなければ良いなと思う智だ。 「そうよ。あたしはね、あいつが精ちゃんにのめり込む事解ってたの。だって、精ちゃんたら、三輪さんの事大好きだったんだもん。あいつにも好意を持たない方がおかしいわ」 それに、精ちゃんの初恋は三輪さんでしょ? 「初恋か。そうなんだろうな」 精次は煙草の煙を揺らし、くすりと笑う。 「・・・三輪さんは俺の憧れだったからな。それは俺だけじゃないと思うけど?」 「そうね。・・・あいつは三輪さんになりたかったのね」 春休みが終わり、新学期が来た。 精次はクラス分けを見て、おや?と、目を細めた。 自分と三輪の名前が同じ枠の中にある。 「同じクラスか」 何となく、三輪が身近に感じられるようになって嬉しい。 この時、精次は別れた三輪と彼の従兄弟を重ねるように見ていた。三輪に何とか近づきたいと思っていた。 それから暫くして、精次は進藤性から緒方になった。 「緒方?」 「うん、緒方の家が俺を養子に欲しいんだって。まあ、そうは言っても名前だけで、俺の家とかは変わらないよ。緒方の家には跡継ぎいないからって言う事なんだ。俺は上に姉さんも兄さんもいるし」 一人欲しいって言う事で俺。 「良いのか?」 「うん、いや、母さんが俺は緒方性の方が良いんだって言うんだ」 「おばさんが?」 「うん」 「おばさんの占いは当たるからなあ」 きっと先々その方が良いんだろうな。 それを実感したのは、ヒカルがトラブルで小学校から姿を消さなければならなくなった時だった。 「緒方 精次になったんだって?」 同好会の部屋で、三輪 要が精次の顔を覗く。 「うん、まあ、名前だけだよ」 精次はしごく穏やかに答えたのだが、三輪 要の方はいらついたような顔になる。 「どうしたんだ?」 「いや、進藤はそれで良いのか?」 「緒方だよ」 「ああ、そうだな・・・言いにくいな」 ちっと要は舌打ちする。 「じゃあ、精次で良いよ。名前は変わらないから」 「精次?」 「俺の名前は、精次だよ」 「じゃあ、俺も要で良いよ」 精次は頷くと碁石を持った。 「打たない?」 さらさらと〜4 新学期になって同好会を覗く者は少なくなった。 部員と言う制度を取ってない為、代表は相変わらず精次だ。 と、言うより精次しか部員はいないのだ。 「部員の無い同好会か」 精次はそれでも良いと思っていたが、教師陣から、 「大会に出れないから、部員を取らないか?」と、意見をもらった。 精次は困った顔だ。 「嫌か?部員がいればクラブとして運営すれば良いだろ?お前がいなくなったら、お終いじゃ無くなるし」 何か不都合あるのか? 将棋担当の吉田が首を傾げる。 「あのですね。俺、プロになるつもりなんです。だから、大会には出れないんですよ。専門に習ってるから」 ほうと感嘆の溜息が出る。 「プロかね?」 「ええ。俺が大会に出る事は出来ません。教えるだけなら出来ますが・・・俺が大会に出ないのに部員と言うのも・・・」 「無責任じゃないかと言うわけかね」 精次は頷く。 「そうか。しかし、もったいないじゃないか。折角の評判の良い同好会だ」 「ええ、でも、三輪さんは・・・」 「彼が?どうしたね」 精次は言い淀む。三輪は今ではいない人だ。 「遠慮無く言ってみて良いよ」 「・・・三輪さんは・・・同好会を碁会所のような気さくな場所にしたかったって言ってました。誰でも手軽に来れる場所にしたいと」 吉田はため息をつくと、やれやれと笑った。 「なるほど。彼らしい。お前さんはその意思を継ぎたいんだな」 そう言われて精次は顔を赤くする。 意思を継ぐなどと大げさなものでは無いと。そして、改めて、自分は三輪が大好きだったのだなあと振り返った。 「しかし、それじゃあ、お前さんが止める時はあの同好会も無くなる時だ。だから、誰かお前さんの後を継いでくれる人がいれば三輪も喜ぶんじゃないか?」 そうですね。 「そんな人が誰かいたら・・・俺も嬉しいです」 「はは、囲碁じゃなくても将棋でも良いからな、後継は。だから、募集をかけてみないか?ポスターを作ったりな。今は口コミだけだからな」 吉田に言われて、精次はポスターを作った。 教師陣の好意で、職員室のドアにでかでかと張ってある。たった一枚のポスターだがインパクトは強い。 たちまち覗きに来る者が増えた。 「精次、繁盛してるな」 智が覗きに来て、差し入れをくれる。 「う〜ん、将棋出来る人がいれば良いんだけどなあ。俺、将棋出来ないからなあ。囲碁だけだし」 「囲碁同好会でも良いだろ?」 まあ、それも良いんだけど、やっぱり指導出来ないと言うのはなあ。 精次は頭を掻くと肩を竦める。 「それはそうと、あいつは・・・」 来ているか?と、聞こうとして廊下にその姿を認め、智は口を紡ぐ。 「精次、打ってくれ」 その言葉に、智は唖然とする。 『何時の間に?名前で呼び合うような仲になったのか』 何だか良くないような気がする。 何だか・・・嫌な感じだ。 「ああ、要、どうぞ」 『・・・精次?』 精次はクラスでも人気者なので、友人も多い。 最近の精次は眩しいと智は思っていた。昨年のような触れたら消えるような頼りない影はすっかりなりを潜め、生き生きと明るい笑顔を振りまいている。 「何だか最近、機嫌良いんだな」 「あ、うん。秋に姉さんに赤ちゃんが生まれるんだ」 「へえ、随分と若い叔父さんだな」 「兄さん達にはもう子どもいるから、もっと前から叔父さんだよ。俺、小学生から叔父さんだ。サザエさんの家みたいだよな」 「へえ、俺、お前の兄さんの事初めて聞いた」 智は本当に知らなかった。 「もう、家にいないからな。誰も。でも、姉さんはわりと近くに住んでるんだ。可愛い人だから、きっと可愛い赤ちゃんが生まれるよ」 「それは楽しみだな」 たわいのない会話。 そんな会話を三輪 要とする事は精次にはなかった。と、言うより教室での三輪 要は全ての人間と一線を引いていた。 精次に対してもだ。 だが、精次は三輪のそんな態度を受け入れてか教室で三輪に話しかける事はなかった。 「今から思えば、みんなに嫉妬していたんでしょうね。どうやって話て良いか解らなかったし。精ちゃんは人気者だったしね」 精ちゃんに話しかけるなんて、なかなか機会がなかったものね。 「・・・うん、そうだったのかもしれないな」 もっと話せば良かったのかもしれない。 「無理よ。あいつはプライドだけは高かったからね。私達の間に入るなんてしたくなかったはずよ」 緒方はそうだったと俯いた。 さらさらと〜5 夏休み寸前、精次は風邪をこじらせて、寝込んでいた。 珍しい事もあるものだと、見舞いに来た智に笑う。 「俺が寝込んでるなんて、珍しい事だろ?」 笑えるよな。 「本当にな。珍しい」 見舞いだと、智は手作りのくず餅を渡した。 「夏休みだから、ゆっくりと休めよ」 寝間着の浴衣から覗く精次の腕がやけに白いなと、智は思い目を伏せる。 「大体、精次はがんばりすぎなんじゃないか?何でも一人でやろうとして」 同好会だって、常時、精次が一人でがんばってるんだから。 同好会名簿の常連客は、教師を含めると40〜50人に上る。 ちょっとしたクラブ並みな人数だ。 もちろん、その中には家庭科クラブも数名含まれているが。 「そんな事無いよ。俺はそんなにがんばってはいない」 「それでもなあ」 みんなお前に頼ってるからなあ。 「そのくらい出来なければ、プロなんかにはなれないよ」 「そうかあ?」 「そんなに大した事無いんだ」 ぴんぽんと玄関の音が聞こえる。 「悪い、智、出てくれるか?」 智が頷いて玄関を開けた。 「誰だった?智」 戻って来た智はにこにこと笑っている。 「精次が会いたい人が来たよ」 「誰?」 「こんにちわ。具合どうだ?」 その声に弾かれたように背を正した。 「み・・・三輪さん?」 「うん、あ、起きなくて良いよ。学校に行ったら、吉田先生がいてね。寝込んでるって聞いたから」 「どうしてここに?」 「ああ、両親の一時帰国で。進藤に、あ、今は緒方か。に、会いたくて」 穏やかに笑う姿は、以前のままだ。 「嬉しいです」 お茶を入れるなと、智は席を立って台所に入って行った。 「同好会も好評だって聞いた。進藤、あ、又、間違えたな・・・」 「精次で良いです。名前は変わらないから」 三輪さんの従兄弟の要も精次って呼んでくれてるんです。 「へえ、あいつ、同好会に来てるんだ。俺がどんなに誘っても来なかったのにな」 珍しい事を聞いた。 「え?そうなんですか?」 「ああ、将棋をしに来いと言ったのに行かないって言うんだよ」 「将棋?」 「ん?将棋じゃないのか?」 「いえ、囲碁です」 ああと、三輪は感心したように頷く。 「じゃあ、憶えたんじゃないか?」 「そうなんですか?」 「精次と打ちたかったのかもしれないな・・・」 俺には言えなかったのかもな。 夢のような楽しい時間だと精次は思った。 三輪の話す話は楽しかった。だが、もう会えないと思うと寂しい風が吹くようだ。 「もう、会えないかな?」 一時帰国が次は何時になるか三輪にも解らないらしい。 「手紙を書くからな」 そう約束して、三輪は精次の家を後にした。 確かに、その後、何度か三輪は手紙をくれたが、精次は次第に書く事をためらうようになった。 筆が止まってしまった精次は、変わりに棋譜を葉書に書いた。 自分ががんばっていると言う証として。 「三輪さんは、俺の手紙を全部持っていてくれたよ」 精次は智に笑う。 「・・・そりゃあ、そうでしょ?精ちゃんの手紙なんだから」 |
|
| 君の花目次 | 1〜5→6〜10 |