ヒカルの碁 | 時にはこんな君と3 |
時にはこんな君と 3 「門脇さん、ありがとう」 深々と頭を下げて、ヒカルがお辞儀をする。 「どういたしまして」 こちらも深々とお辞儀をする。 喫茶店の一角で、妙は風景が繰り広げられた。 「で、門脇さんの話を聞かないとと思って」 ヒカルが憶えていてくれた事に、門脇は驚きで口の端が緩んでしまう。煙に巻かれるかと思っていたのだ。案外と律儀な話だ。 「う〜ん、ま、その前に俺の家族の話を聞いてくれよ」 「家族?」 「俺の妹達の話」 「俺の妹達はね、俺より2歳下で一卵性双生児なんだ」 ふうん。双子なんだ。 「この二人が又、不思議な奴でね。相手の言いたい事とかが解るんだよ。まあ、二人は容姿とか性格は似てるんだけど、まるで同じと言うわけではないんだけどな」 「でね、進藤君。君、双子じゃなかったの?」 いきなりな質問に、ヒカルは目を白黒させた。 「俺が双子?俺、一人っ子だよ」 「うん、だから、過去系。産まれる前に双子だとか言われてなかったかな?」 ヒカルは首を傾げる。 「誰もそんな事を言う人はいないよ?何で」 「ここからは、あまり気分の良い話ではないんだけどね。ま、聞いてよ」 あのね、双子ってたまに、母親の胎内にいる時に一人が消えてしまうんだよ。理由は色々だと言われてる。母胎が一人しか選択出来ないとか、もう一人の力が強すぎて相手を消してしまうとか。色々あるみたいだよ。 で、たまに、その消えた一人がもう一人の身体から見つかる事がある。 進藤君?平気?こんな話を聞いても。そう、大丈夫。 俺はオカルト信者じゃないんだ。でも、妹達を見ると、こんな考えも出来るなあと、思ったんだ。 君の中に双子の片割れがいて、それがとても碁の強い奴だった。君は俺とそいつをあの時に、打たせたんだって。 まあ、俺の推理だからね。 で、君の中にはその子はもういない。君が、手合いに出なくなった頃に消えてしまった。 そんな考え方をすると、何だか、辻褄が合うような気になる。 双子、特に一卵性は不思議な結び付きがあるらしいからね。 「まあ、こんな話をしたかったんだ」 門脇はぽりぽりと頭を掻く。ヒカルは黙って、門脇を見つめている。 「・・・それは半分あたりで半分外れ」 え?! 「門脇さんの言う事は半分あたりで半分外れ。俺にも旨く説明出来ないんだよ。でも、門脇さんみたいな人がいる事は解った。これは俺の収穫だよね」 ヒカルの言葉に、門脇は何となく妹を思い出す。 妹達の結び付きは、旨く説明出来ないと言われる。それはどんなに言葉を費やしても、相手に伝わる物ではないからだ。 「そっか、半分あたりで外れなのか。まあ、それだけで俺には十分だよ」 ふふとヒカルが笑った。 「門脇さんはやっぱり良い人だね」 「謎は謎のままも良い物だからな」 この世には不可解な事は多いのだから。 「魂には3g重さがあるんだって言われてるよ」 ヒカルは驚いた顔になる。魂にも重さがある? 「亡くなる前と亡くなった後の体重を比べてみたらって言う実験をした人がいるんだ。3g減ってたって」 質量があると言う事は、エネルギーがあると言う事だ。 「案外、呪いとか馬鹿に出来ない話かもしれないぜ」 質量・・・ヒカルが呟く。 「じゃあ、そのエネルギーが無くなったら?どうなるの?」 「俺の考えじゃ、それが成仏なのかもって思うよ。まあ、エネルギーが無くなる度合は、人によって違うだろうけど。CDとDVDは見かけも重さも似てるけど、情報量は全然違うし、そう言う事が魂にも言えるのかも。後、エネルギーを何処かで補給出来るとかもあるのかもしれない」 そうかあ。と、ヒカルは何やら考え込んでしまった。 暫くは二人の間は沈黙だった。 「ねえ、それって、コピーとかも関係あるのかな?」 「何?」 「ええと、そのエネルギーと言うか、情報を他に移し替えたから・・・魂のエネルギーが無くなった・・・とか」 「質量保存の法則で言えば、強い所から弱い所に流れる物だな。エネルギーは。電気のように考えるとそうなのかもしれない。ま、魂だからこんな科学で証明出来る事とは次元が違うとは思うけどね」 ヒカルは黙って、テーブルの上の伝票を取ると、立ち上がった。 「門脇さん、ありがとう。お礼にここは奢るよ。門脇さんの話は面白かったよ。ううん、面白いと言うより、嬉しかった。じゃあね」 ヒカルの後姿を見送った門脇は、 「あの時と同じだな。はは」 さて、楊海に電話かな?まったく。 ヒカルの謎を別方面から書いてみました。楊海さんのsaiの推理とかもあります。 |
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