ヒカルの碁 楽園の管理人8
  楽園の管理人〜8


 夜の闇が甘い。
 それは、自分の下で甘い喘ぎを漏す人物がいるからだ。
 伸ばした手に縋る、形の良い指が微かに振えている。
 微かにたてられた爪が、痛みを伝えてくるが、下肢を支配する快楽はそれすらも熱を煽る要素でしかない。
「声を聞かせて」
 そっと噛みしめた唇を開かせると、音があふれ出す。
「ああ、アキラ・・・」
 その名だけを繰り返すだけだ。
 その唇からは決して、愛と言う言葉は出て来ない。
「ねえ、気持ち良い?ヒカル」
「うん、いい・・・」
 決して聞けない言葉の変りに、抱きしめる相手を煽る。
 一瞬の緊張の後に、ヒカルが薄い膜の中に精を吐き出す。その内壁の緊張に、アキラも最高を極めた。

 アキラは薄い青の膜をそっと引出す。狭い内壁を抜けるきつさに、再び快感が襲ってくる。
「アキラ、まだ足りないのか?」
 膜越しに立ち上がった物を視界に入れ、ヒカルはアキラの顔を覗き込む。
「うん、あ、そうみたい。今日は、棋戦に勝ったから・・・どうも、血が昇ってるみたいだ」
 ヒカルは自分のコンドームを外すと、新たに付け直す。
「良いぜ」
 アキラの喉がごくりと鳴る。
 銀色のパッケージを破りすばやく付けると、アキラはヒカルの内部に押し入った。
 微かな呻き声の後に、大きく息を吐くと、
「大丈夫だ」と、ヒカルが零す。
「嫌なら言ってくれ」
 今更だが。
「ふふ、平気だよ。アキラ」


「進藤」
「ん、何?塔矢」
 塔矢とヒカルが呼ぶ。それは情事の終演の台詞だ。
「・・・君は、その・・・平気なのか?抱かれるだけで」
 きょとんとヒカルの目が見開かれる。
 暫しの沈黙の後、ヒカルがゆっくり口を開く。
「それは・・・俺が塔矢を抱くの?」
「ああ、そうだ」
「・・・あ、気にしなくても良いぜ。するのもされるのもそんなに変わらないじゃない?俺だって、お前に跡つけたりしてるし」
「そんな気は起きないのか?」
「え・・・ん・・・」
 ヒカルは困った顔をアキラに向ける。
 眉を寄せて考え込む姿は、アキラも何と言って良いのか解らない。
「あ、あの、君が良いならそれで良いんだ」
「アキラは俺にして欲しいの?」
「・・・・」
「そんなんで、俺に聞いたの?」
 ヒカルはけらけらと笑う。
「あ、いや、君はそんな気分にならないのかなと・・・思って」
 ヒカルは起きあがると、シャツを羽織る。
「もらうぜ」と、冷蔵庫を開けると飲料水のボトルと取り出し、そのまま口を付けた。
 ヒカルの喉が鳴る。
 ごくごくと喉がなり、ボトルの中身が減って行く。
 それをアキラは吸い寄せられるように見ていた。



 緒方はヒカルが肉体関係を持った最初の男だ。
 きっかけは、些細な事だった。
「男とやるってどんな感じかな?」
 ヒカルの無邪気な質問に、緒方は無言でグラスを干す。
「何故、そんな質問をする?」
「ん・・・俺、困る事あるんだよ」
「何がだ?」
 緒方はグラスに酒を注ぐと、水を入れ氷を浮かせる。それをヒカルに差し出した。
「飲んでみるか?」
「うん、苦いよね」
「ああ、苦いぜ」
 ヒカルがグラスを飲み干すと、緒方はそれを受け取った。
「で、困る事ってなんだ?」
「俺に色目を使う男が多いんだ。明かに下心ありそうな男がね。俺、男とやるってどんな感じか解らないし、ちょっと怖い」
 だって、入れる場所が場所だからね。
「色目か。俺も色目は昔から使ってるぜ。お前に対して」
「緒方先生は別だよ。俺、知ってるもん」
 緒方はやれやれとため息を吐く。
「お前はそうやって俺にいつも釘を刺す。・・・俺とやってみるか?進藤」
 どうせそのつもりだろ?
「俺は男とはやった事はないがな。女とはお前より経験豊富だ。どうだ?」
 緒方の前でヒカルが笑う。
「やっぱり、緒方先生、好きだよ」
「抜かせ、嵌めたくせに」
「でも、俺、初めてだよ」
 だから、せめて好きな人としたいよ。

「好きか。LIKEに毛が生えた程度の好きだろ?」
 緒方が苦笑する。
「それでも、他の人よりはましだよ?俺は・・・あの人しか愛さないんだよ。そう言う意味では」
 やれやれと、緒方が手を伸ばす。
「ベッドに行くか」


 ヒカルは緒方の手ほどきで、その手の知識を手に入れた。
 コンドームは必需品だから、必ず持つ事。ちゃんと最初に断りを入れる、気を持たせない事。等々。
「基本的には女と変わらないと思うがな」
 散々に指で慣らした後だったが、流石にその衝撃は強かった。
 ヒカルは息が出来ず、両手を縋る物を探して蠢かした。
 まるで溺れる人のようだ。
「進藤」
 緒方がその手を取ると指を絡めた。
「進藤、ゆっくり息をしろ。ここは水の中じゃないんだ」
 虚ろな目が開かれると、ゆっくりと胸が上下する。
「息・・・出来るよ。今、入れてるんだよね。俺の中に」
「そうだ。どんな感じだ?」
 ヒカルは困ったように眉を寄せる。
「な、何か変。その・・・身体に栓がしてあるみたい・・・。今は痛くないけど・・・何か、おかしいよ」
 そうか?と、緒方が腰を揺する。
 途端にかっとヒカルに血が昇る。
「あ、何か、変。気持ち悪いような・・・でも、気持ち良いような」
「その内、気持ち良くなる。快感を覚えておけよ」
 緒方はヒカルの性器をコンドーム越しに握ると、激しく責め立てた。
 途端に、ヒカルの身体がはねると、下肢に力が籠ってくる。内壁に埋め込んだ緒方の性器を締め上げる。
「おい、進藤、少し力を抜け。俺が痛い」
「ん、そんな事言ったって・・・無理だよお・・・」
 しょうがないな。と、緒方はさらに手を動かす。
「一度、抜いたら気も収まるだろ?ほれ、イキな」
 うっとヒカルの熱い息の後に、びくびくとコンドームの中にヒカルは白濁を吐き出す。
「どうだ?」
「あ、やだあ・・・何か、熱い」
 緒方がヒカルの腰を引き寄せると、自分の性器を引き抜き打ち付けたのだ。
「お前も男なんだから、快感の引き出し方法は解ってるだろ?男の生理だ。俺も抜かせてもらうぜ」
 その後、緒方は無言で腰を打ち付けた。
 ヒカルは熱い波に翻弄され、今度こそ溺れるはめになった。



「俺、気持ち良いから平気だよ。アキラが気を使う必要はないよ」
 ボトルをテーブルに置くと、ヒカルは前髪を掻き上げる。
『でも、どんなに中に入れても、あの時ほど、親密にはならないんだよな』
 それは本当に、小さな呟きだ。
 アキラにも殆ど聞こえる事はなかった。
「塔矢、もう寝ても良いかな?」
 アキラは静かに頷くと、自分の隣を空けた。
「サンキュー。おやすみ」


 ねえ、君が心に持つ人は誰?
 saiなの?あのネットの棋士の。
 君が心から愛してる人は、その人なんでしょ?
 ねえ、教えて。
 僕は、この隣で寝ても良いのかな?
 君を抱きしめて。

 アキラはそっとヒカルの手に指を絡める。
 途端にヒカルはあどけなく微笑んだ。


 今回、ヤルだけです。見逃して下さい・・・。出来心です。
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