ヒカルの碁 マーチでGO番外1

  正月がつがつ(マーチでGO番外1)


 厳かな新年が明けた。世間では、まだ初詣の正月三日。
 塔矢邸の庭には、バケツ30杯が陳列してあった。ご丁寧にも、昨日の夜から汲んでいた物で、うっすらと氷が張っている。
 一応、開始は朝11時。太陽が昇りきったお昼前。庭にもさんさんと日差しがあるのだが・・・。
 今は、真冬なのだ。
「さあ、年始の行事を始めるぞ」
 緒方のかけ声で、塔矢門下と森下門下の若い衆は、庭に出る。
 恒例により、褌だ。
「今年から、先生のお身体の事もあり、俺が指揮をする事になった」
 両方の門下から一斉に、げっ!と声が上がる。
「森下先生も今年からは俺にまかせてくれる事となった」
 そう言うわけですね。
 緒方がくるりと振り返ると、火鉢にあたっている、行洋と森下が目に入る。
「おお、若いもんを鍛えてくれよ。緒方君」
 森下の声に、緒方は褌一丁の胸を張る。
「おう、芦原、リストを出せ」
 芦原が出したリストを受け取ると、白川もリストを出す。
「緒方君、これうちの分だよ」
「では、一次負け組みの名前を呼ぶからな。恒例どおり、最下位組みはバケツ3杯だ」
 次々と氷バケツを被るなかで、ヒカルが緒方に囁く。
「俺。やらなくていいの?」
「お前はリーグ3次まで食い込んだじゃないか。いいんだ」
「でも、俺、服着てるよ。いいの?」
「褌はつけただろ?アキラ君も出てないからいいんだ。それに、お前の裸なんか見せたくない」
 我が儘一杯のタイトルホルダーである。
 この先、この行事に私的意見が多大に影響する事は否めないだろう。


 その頃のアキラ。
「湯加減・・・37度。OK」
 風呂を沸かしていた。


 しかし、この寒風の中でも褌一枚で立っている緒方は、皆を感心させた。同様に白川・芦原もだ。
「いや、流石、正月行事燃えますね」
 白川の場合、精神だけで暖かくなれるようだ。
 さすが、あだ名が【静かなる実力者】だ。
「イベントって楽しいですね」
 芦原は根っから、楽しむ人間らしく、きっと脳から多大なエンドロフィンが出ているのだろう。それは、緒方も同様らしい。
 緒方の場合は、ヒカルが来ている事で燃えるらしい。
『すけべ中年め』とは、誰もが思うが、口にはしなかった。
「さて、ラストだな。今期、一番成績の悪かった者バケツ3杯だ」
 ご丁寧に、氷を割ったバケツが彼の目の前に置かれる。
 しかし、6杯ある。
「お前さんだけに寒い思いは偲びないんでな。俺も付き合ってやる」
 言うが早いか、緒方は自分で頭から、バケツを次々と自分の上に、ひっくり返した。
「緒方先生!かっこいい!」
 ヒカルのうっとりとした顔に、緒方は笑いかける。
 それこそ、気障が服をきているようだ。いや、今は、褌一丁だが。
「さ、行くぞ!!」
 おらっ!!のかけ声で、バケツ3杯は消費された。


 その頃のアキラ。
「おかあさん、みそ汁出来た?」
 母とみそ汁を作っていた。


「緒方先生、かっこいい」
 成績序列で、当然最初に風呂に入れるのは、緒方に白川だ。だが、何故かヒカルもいる。
「白川先生もかっこ良かった〜。俺も出たいなあ」
「駄目だ。前期優秀株が風邪を引いたら困る」
 緒方の言葉に、白川も頷く。
「そうですよ、進藤君。塔矢君も君が風邪を引くと困ると思いますよ。え?和谷君と冴木君ですか?彼等は風邪なんか引いた事ないですよ」
 和谷・冴木・・・彼等の兄弟子は結構シビアであった。

 20分後、塔矢邸のデカイ風呂に海水浴場以上の満員で、人が詰め込まれたが、誰も文句は言えなかった。


 その頃のアキラ。
「おかあさん、バケツ片づけておくね」
 後かたづけをしていた。
「進藤と僕のお汁粉は部屋に運んでおいてね。後で、碁を打つんだから。緒方さん、進藤のお持ち帰りは止めてくださいね。芦原さん、みなさんにみそ汁を運んで下さい。白川先生、森下先生が呼んでましたよ」
 多分、来年もこのメンバーで行事は巡る。
 アキラはマネージメントに精を出した。
「進藤も物好きだなあ」


 書いてしまいました。リクがあったので、書ける内にと思いまして。最下位の方は合計バケツ6杯をかぶる事になっているのです。誰かは想像して下さい。

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