ヒカルの碁 君の花番外 緒方精次の初春
君の花〜緒方精次の初春

「緒方さんてまめですね。相変わらず」
 テレビ画面を見ながら、白川は隣の人物に笑う。
 緒方はイベントに呼ばれる事を断る事は無い。目立ちたがりと言うわけでは無く、ちょっとした理由ありの為だ。特にテレビ関係の仕事を頼まれると必ず出る。
「はい、これ、編集分です」
 白川が緒方に封筒を渡す。
「ありがとう」
 編集までしてくれるなんて思わなかったな。
「愛しの緒方さんの為ですからねえ」
 どういたしまして。

 緒方が出たのは、新春の一対ペア碁のアドバイザーだ。
 アマ6段に対して、俳優ペアの二人が碁を打つ。ペア碁の補助の指導員に芦原が入り、その芦原のヘルプに緒方が入る。
 綺麗処が指導員に入るのが当然だが、緒方の相手は何故か何時も芦原だ。
 どうやら、緒方が出る時はそう決まっているらしい。
「緒方さん、人気ありますものね」
 揉めるらしい。
 こう言う引く手あまたな割には、浮いた話が無いのが謎だ。
「まあ、芦原の方が楽で良いし」
 長い付き合いの弟弟子でもある芦原は、緒方のパートナーを自負しているらしい。
「そう言えば、予想が当たらないとぼやかれていたな」
 テレビ画面を見ながら、緒方が苦笑を零す。
「まあ、そうそう思惑通りには行かないものですからね」
 相手も先を読んでますし。
「まあ、芦原だしな」
 当たらなくてもと思うな。
 へくしゅん!と、くしゃみを零したのはキッチンでコーヒーを入れていた芦原だ。
「ひどいなあ、緒方さんだって、俺の意見に同意してくれたじゃないですか」
「そりゃあ、お前が俺にここに打ったらって聞いて来たからだろ?俺の意見じゃない」
 おい、コーヒーにくしゃみは入れてないだろうな?
「入れてませんよ」
 あ〜腹いせに入れてたら良かった〜。
「これ持って明日は師匠の所に行くんでしょ?うう、嫌だなあ」
 明日はみーんな集まるからからかいのネタにされそうだしい。
「まあ、お祭り解説だからな。俺だって出てるんだから同じだ」
 緒方は芦原にコーヒーをもらうと白川に手渡した。

「白川さんの所は?新春の集まりは何時です?」
 ああ、新春ね。
「もう、終わりましたよ。大晦日に餅つきしてそのまま除夜の鐘を聞いて、良いお年を〜です。今年は何でも町内会で餅つきをするから人手が欲しいって事で、冴木君や和谷君が大活躍ですよ。僕はほどほどにしてもらいましたけど」
 もう若く無いですから。
「って、それ程の年でも無いでしょ」
「はは、じじむさいって良く言われますけど?」
 囲碁なんかしてると特にね。
「でも、テレビ出てるのは若手ばっかりなんですけどね」
 芦原はあ〜あとため息をつくと、ででんと居間のローテーブルの上にケーキを置いた。
「ほう、立派なケーキですね」
「昨日、近所のケーキ屋のおばちゃんにもらったんですよ。あまり材料で作ったって」
 緒方さん甘い物嫌いだけど、ヒカル君が来るかと思って。
「白川さんも来てるから減らして行って下さい」
 ラム酒付けのフルーツが入ってますよ。
「やあ、これは嬉しいなあ」
 新春から野郎三人でケーキを囲んでいると言うのは何だかおかしな光景だが、緒方はかなりご機嫌だ。
「緒方さん、ご機嫌ですね」
「そう見えます?」
 見えいでかと白川はケーキをほおばり、フォークで指さした。
「何か良い事あったんですか?」
「まあ、その・・・あったと言えばあったような無かったような」
「ヒカル君がらみですか?」
 緒方のご機嫌は大抵それだ。だが、今日は違ったらしい。
「いや、ヒカルとは関係無い」
「へえ、そりゃあ珍しい」
と、芦原が茶々を入れる。確かに珍しいので緒方は肩を竦めた。
「まあな。あ、ヒカルもアキラ君も餅つきに行ってたんだ?確かそう聞いたんだが?」
「あ〜確かに来てたんですけど、何だか用事があったみたいで、来た時には終わっちゃってたんですよ。和谷君がむくれちゃってね。もっと早く来いって」
 あ〜。
「それは悪かった。俺のせいだ。俺がちょっと引き留めてたんで」
 車のワックスをかけてくれって頼んだんだ。
「自分でやらないんです?」
 緒方は自分でやってたはずなのに何故今年はそんな事を?と、白川は珍しいと言う顔をする。
「あ、いや、その・・・小遣いをと思ったんだが、社会人だから受け取らないとか言うんで。車のワックスかけでバイト代だって」
「ええ〜そんな事なら俺がワックスかけたのにい」
 芦原はひどく残念だと零す。
「お前・・・二十歳こえてるくせにそんな事を言うのか?」
 呆れた。
「それにお前、この解説で臨時収入あるだろ?」
「いや、まあ、そうですけどお」
 だって、俺も随分お年玉もらってないし。
 ぱこんと緒方の丸めた雑誌が芦原の上に落ちた。
「お前は幾つだ」
「で、車にワックスかけてお小遣いあげたんですか?二人に」
「ああ、まあな」
 恐縮してたけど、車二台分だしな。
「それにまだお年玉を貰える年齢だぞ。二人は」
 へいへい。俺はもう大人ですよ。
 それを見ている白川は、ふと、思い出したとにこりと笑う。
「そう言えば、僕もお年玉しげ子ちゃんに上げたんでした。和谷君、蒼白になってましたよ。まさか、大晦日にお年玉とは思って無かったんでしょうね。!あ、そっか。塔矢君とヒカル君が持ってきてくれたお菓子はもしかして、バイト代?」
 何だ?
「和菓子を持ってきてくれたんですよ。すごく大量にね」
「流石、ヒカルちゃんですね。気が利く」
「まあ、お前よりはな。芦原」
 ぐだぐだとたわいもない事で笑い合っている三人だ。
 緒方はとても機嫌が良い。
「本当に機嫌が良いんですね。緒方さんの良い事って何です?」
 緒方はちょっと苦笑すると一通の手紙を渡した。
「読んでも?」
「ああ」


 精次、新年おめでとう。誕生日もおめでとう。


「カード?ええと、あ、将棋の君からですね」
 どうりでご機嫌なはずですね。
「緒方さんて、この人から手紙が来るといっつも機嫌良いんですよね」
「ええと、何々?今年こそは約束を守れそうだ」
 何の約束です?
 緒方は遠い目をすると照れくさそうに微笑む。
「遠い昔の約束ですよ」
 凄く昔の。
「この新春録画のDVD送るんでしょ?三輪さんに」
 そう思ったから編集したんですよ。
「テレビに出る分はみんな送ってるんでしょ?」
「ああ、俺は筆無精だから」
「でも、一月に一度は出してるんだから豆ですよね」
 白川に言われて、緒方は照れくさいと頭を掻く。
「約束だから。俺がテレビに出るようになったら、三輪さんに見てもらうって」
 白川はちょっと昔の思い出を振り返る。
「緒方さんの誕生日って何時でした?」
「一月十七日。三輪さんは毎年カードをくれるんですよ」
 それでことの他ご満悦らしい。
「あちらもまめですね」
 で、約束って?
「大した事じゃないよ」
「でも、凄く嬉しそうですよ。緒方さん」
 教えて下さいよ。

「・・・帰って来る・・・んだ」
 え?
「三輪さん、日本に帰って来る・・・」
 白川と芦原は心底驚いた。
「何時?」
「それは解らないけど・・・でも、約束はそれだよ」
 何時か帰るって。



「暑いな。汗だくだ」
「お帰りなさい」




 君の花〜緒方精次編〜のラストシーンです。学校の裏の丘で、智さんと思い出話をしているのは、三輪さんを待ってるんです。
 だから、ラストは二人の再会です。
 この話、非常にBL臭いんですけど、まあ、度を超えた友情です。と言うより繋がりが深すぎると言うお話です。
 君の花〜緒方精次編〜のBGMはユーミンの「春よ来い」です。
 お暇な方は歌詞を見て下さい。

 フレーズの 
 君に預けし我が心は 今でも返事を待っています。どれだけ月日が流れても、ずっとずっと待っています。

 と、言うのが気にいってます。
 この二人文通しかしないんですが、以前にたった一つだけ約束した事がありまして、
 それが、「何時か帰る」と言う約束です。
 何時かが何時か?は、まったく解らないんですが、緒方はちゃんと信じていると言う。気が長い奴です。
 君の花の緒方にしては随分と情けないんですが、わりとこの設定は気に入ってます。
君の花目次