ヒカルの碁 いろは〜諸人の集い
諸人の集い

「なあ、進藤、一緒に暮らさないか?」
 緒方の言葉に、ヒカルは頷いた。



 その席にはすすり泣きの声しかなかった。
 ヒカルは白のワイシャツに黒のネクタイ、黒のコートを着て、車椅子に座っている。
 膝から下には大判の膝掛けがかけてある。アキラの妻がかけてくれたものだ。
「ありがとうございます」
 そう言って頭を下げるヒカルを後から緒方とアキラが支える。
「進藤、休まなくて良いか?」
 あまり顔色の良くないヒカルを気遣ってのアキラの言葉だ。
「・・・大丈夫だよ。それより、犀の事をありがとう」
「ああ、息子たちが遊んでくれている」
 犀ちゃんは君に良く似てるな。


「これからどうする?」
 全てが終わった後、ヒカルが親戚に聞かれた言葉だ。
「もちろん、犀と二人で暮らすよ。大丈夫だよ」
 しかし、従兄弟達は不安そうな顔を見合わせる。
「ヒカルだけで暮らすのはともかく、犀ちゃんはどうするの?その足で、犀ちゃんの面倒を見る事が出来る?でも、私達は遠くに住んでるしね。お仕事もあるし」
「大丈夫。塔矢の奥さんが、暫くは犀の面倒を見てくれるって、だから、大丈夫」
 ヒカル・・・。
「無理しなくて良いんだよ」
「うん、でも、俺、犀と一緒にいたいんだ」



 緒方はその席の端にいた。黙していた緒方だが、誰もいなくなった後、ヒカルに問うた。
「なあ、進藤。一緒に暮らさないか?」



「聞きましたよ!緒方さん、ついに進藤にプロポーズしたとか」
 アキラが鼻息荒く、緒方の所にやって来た。ヒカルはまだ、入院生活だ。
「あ?ああ。まあな」
 アキラの暴言に返す言葉も何だか頼りない。
「何です?その返事!その気がないなら、僕が進藤と暮らしますよ!犀はゆう子のお気に入りです。一緒に暮らすとなると喜びます」
 ふんと偉そうにアキラは胸を張る。
「・・・相変わらず、自信家だよな」
「ええ。弱気は不運を呼びますから。何時でも強気でないと。で、何で後悔してるんです?」
 緒方は苦笑する。
 アキラは何時でもアキラなのだ。どんな時でも、自分に正直だ。
「んん、まあ、本当に俺で良かったのかな?とね」
 途端にアキラががしりと緒方の胸ぐらを掴んだ。今では身長が185pのアキラは、緒方を抜く大した迫力だ。
「そんな曖昧な気持ちだったんですか?」
 地を這うような脅しの言葉だ。
 緒方がふうと息を吐くと、アキラは手を弛めた。
「曖昧じゃないから、迷うんだ。進藤は俺の元で幸せになれるだろうか?」
「進藤が選んだんです。間違いはありません」
 そんな事を言うなら、僕が横からさらいますよ。
「卒業のように?」
「Yes。花嫁をさらわれるのは、本意じゃないでしょ?まあ、僕がどんなに誘っても、進藤は首を縦には振らないと思いますがね」
 何でこんな親父が良いんだか。
「進藤は、趣味悪いですよね。こんな親父の弟子をしてるんですから」
「そんな親父の弟弟子の言う言葉じゃないと思うがな」
 あまりな言い方の反論だ。
「ですよね。僕も趣味が悪いんです」



「さいのおうちには、ぱぱとおとうさんがいるんだ」
「へんなの」
「へんじゃないよお。でもね、パパはおとうさんのことをししょうってよんでるの」
「ししょうって、なあに?」
「ん、せいせいのことだって」
いろは物語目次 ヒカル→先生(師匠)