ヒカルの碁 いろは〜永遠を夢みる
永遠(とわ)を夢みる

 永遠の夢を見た。
 遥か先には、広がる青い空、遥か先には。
 遥か先には・・・

 優しい人の微笑み。





 ヒカルが緒方に仲人を頼みに行ったのは、あの約束から3年の月日が流れていた。
 アキラはタイトルを取った途端、衝撃的な出会いをし、既に2人目の父親になろうとしていた。(つまりは妊娠中と言う事だ)
 アキラの父の行洋も息子の事を可愛がっていたが、アキラもべたべただ。
「でね、パパちゅきと言うんだよ。可愛いだろ?」
 システム手帳にはいつも息子の写真入。携帯待ち受け画面は息子。
 立派な親馬鹿だ。
 アキラは元々言動が変だと思われていたが、今度は立派な、正統な、過剰親馬鹿だ。

 そう、そうだと思う・・・。
 例え、その写真が息子の女装姿でも。
 赤ん坊だと思えば・・・それも、愛嬌がある。


「へえ、ついに君にも運命の人がやって来たのかあ」
 ねえ、息子の写真見ない?今度はフリルレースなんだ。
「ああ、うん。見るよ。今度は女の子だと良いな」
 ヒカルは写真を受け取る。
「う〜ん、でも、男なんだよ。昨日解ったんだ。僕はどっちでも良いんだけどね。あの人には女の子が良かったかな?うち、男性の家系らしいなあ」
 でも、まだまだ頑張るから。
 あははと頼もしいお言葉だ。
「あはは、俺も頑張るよ。女の子が出来たら、ぜひこれ譲ってくれよな」
 写真の中のドレスを指さすと、アキラに笑いかける。
「ああ、良いよ」
 まだまだあるんだ。あの人はこう言うの作るの趣味だから、君の子供が女の子だったら喜ぶよ。
「ふふ、あいつは裁縫はまるっきり出来ないから、きっと喜ぶよ。可愛いよな」
「緒方さんの所には行ったんだ?」
「行ったよ。何かようやくだなって、苦笑された。ほら、あれから結構たつから、何時俺に仲人をやらせるんだって、たまあに文句を言ってたんだよ」
「ふうん、何時出来なくなるか心配だったんじゃない?もう、歳だからねえ」
 からからとアキラは陰口を叩くが、緒方はそんなに歳ではない。
 まだ、40そこそこだ。
 ちなみにまだ、独身だ。これからも独身だろう。



「連れてきたよ、師匠。俺の嫁さん。ねえ、仲人をしてね」
 ヒカルが連れてきたのは、綺麗なすらりとした女性だった。
 こんな女性がヒカルの好みだったのか?緒方は以外だった。そう、緒方はヒカルの趣味は、知り尽くしていたはずだが。
 長い黒髪の優しげな容貌。ヒカルより5つ年上と言う話だ。
「綺麗な人でしょ?」
「ああ、そうだな」
 目の前で頭を下げる人を緒方はまじまじと見つめた。
「進藤の師匠です」
「ええ、良くお話は聞いています。碁の大家だとか」
 大家とは何ともな言い方だ。緒方は目を細める。
「いや、こいつもその一人ですよ。まあ、こいつの頭には碁石しか詰まってないんで、あんまり面白みのある男じゃないですけどね。碁打ちには最高ですが」
「そんな事はないですよ。ヒカルはおもしろいです」
 緒方ははたと膝を打った後に、爆笑する。
「あはは、ええ、こいつは面白い奴なんです。聞きました?仲人の話」
 にこりと頷いている。
「ええ、タイトルのお祝いだとか」
「もう、二人で話してないで、俺にも話させてよ。ね、綺麗な人でしょ?」
 緒方はヒカルの頭をわしわしと撫でた。
「ああ、上出来な嫁さんだ」



 ヒカルが結婚したのは、五月五日だった。
 鯉のぼりが空にたなびく、美しい青空の日だ。
「ねえ、見てる?」
 ヒカルは空を仰いだ。

 永遠(とわ)を見た。

 青い空の彼方に。

 美しい優しい人の微笑み。それこそが、永遠(とわ)。
いろは物語目次 師匠→ヒカル