ヒカルの碁 いろは〜昨日見た夢
昨日見た夢

        昨日見た夢。

        懐かしい夢。

        寂しい夢。

        でも・・・嬉しい夢。


「・・・ああ、夢か」
 夢に魘されるのは久々だ。原因は解っている。例の写真のせいだ。
 あれから・・・。
 アキラがトイレにしかけた写真は、ようやくたどり着いた緒方が撤去したのだが、もう既に遅かった。
 そこらここらにまるで、嫌がらせのように例の写真が張り出されているのだ。
 緒方は知らなかったが、それは白川と芦原による共同作業である。
 あまりの多さに、もう剥がす元気もない。

『人の噂も75日。その内、忘れるさ』
 開き直った緒方だ。
 人生にはたまに開き直りも必要だ。それが、明日の平和を約束する。

 しかし、困った事に、それ以来、緒方の元に○ラ○モングッズが届くようになった。
 今、緒方の寝室の一角は、それで埋められている。
『チビにやるか』と、思っていた緒方だが、某モンスターの方が良いと言われ、諦めた。お菓子は良くても、グッズは吟味があるらしい。
 難しい年頃だ。
 仕方ないので、今だ、寝室の一角にそれらは置かれているのだ。
 既にダンボールに山積みの青いネコだが、増殖する毎日だ。(今日も一人?やってきたのだ)

「その内、何処かの病院か幼稚園にでも寄付するか」
 そう思わないとやっていられるか!



 その次ぎに見た夢は、昔の夢だ。
 塔矢家で、行洋やアキラと話をする夢だ。夢なので、ありえない建物の間取りもある。
 何故か純和風の家のはずなのに、洋館のような部屋がある。
 そこには、テーブルが置いてあり、行洋が茶を飲んでいる。
 緒方を見つけると行洋は手招きをした。
 そくされるままに椅子に座ると、アキラが茶を運んで来てくれる。
 光溢れる白い空間で、二人が緒方に話しかける。
 だが、緒方は悲しくなるのだ。
 それが何処から来ているのか、まるで解らないのだが、悲しいのだ。


「師匠・・・?」
 目が覚めてから、緒方はその夢を考えた。
 別に師匠は何処にもいなくなった訳ではない。では何故、寂しいと思うのだろう?
 そうだ、寂しいのだ。
「?」
 良く解らない感情だ。
「・・・進藤を呼ぶか」
 緒方はヒカルを捕まえる事に決めた。ヒカルならその答えが解るのではないだろうか?



「なあ、進藤。お前が懐かしいと感じて悲しいと感じる夢はあるか?」
 駅前の喫茶店で、ナポリタンを食べる愛弟子を見ながら、緒方が零す。
「・・・あるよ」
「ほう、どんな夢だ」
「俺の大好きだった人が・・・夢に出てきて微笑んでくれるんだ」
「ほう」
「・・・もう会えないから、尚更・・・。愛しいよ」
 その夢が。

 もう会えない・・・。もう、戻らない日々?
 ふと、緒方は思い出す。

『ああ、何時からだろう。俺が師匠とこんな時を持たなくなったのは』
 そうか・・・。
 俺と師匠はもう、俺と進藤じゃないんだ。
 確かに弟子だ。だが、師匠はもう、俺の身近にはいない。空を飛び、自由を謳歌しているのだ。
 もう俺には届かない、さらに高みにいるのだ。

 何時か、お前もそうなるのか?
 俺から離れて行ってしまうのか?
 言葉には出さなかったのに、進藤は顔を上げると、にこりと微笑んだ。

「師匠、惚け老人になっても俺が介護するからね。大船に乗った気でいてね」

「・・・ありがとうよ・・・」

 ああ、俺は人並みな寂しさも味わえない人間だったのだ。
 このプリン頭が弟子なんだからな。


 緒方が次ぎに見た夢は、ヒカルと笑っている夢だ。
 緒方がそれをどう感じたのか?
 答えは緒方しか知らない。
いろは物語目次 さわやかさん→雪の降る町を