| ヒカルの碁 | いろは〜手袋を買いに |
| 手袋を買いに 童話、「手袋を買いに」は、教科書にものっていた有名な話だ。 雪の降った日、キツネのおかあさんが、子供のために手袋を買うと言う話だ。でも、人間が怖いおかあさんは、子供に魔法をかけて、一人でお使いに行かせる。 魔法がかかっていない手を出してしまった子ギツネだが、親切な帽子屋のおじいさんは、手袋を売ってくれる。 「ねえ、おかあさん、人間って怖くないや」 「本当に怖くないのかしら?人間は」 うん、そうだね。本当に怖くないのかな? 僕は・・・。 俺はその時、何と思ったのかな? 「ああ、やっと熱が下がったね」 にこやかに覗き込む一番弟子に、緒方はげんなりと脱力する。それでも、何処か嬉しいのだが。 「ああ、迷惑かけたな」 その言葉に、ヒカルはぷくりと頬を膨らます。まるで子供だ。 「弟子なんだから、当たり前だよ」 今時の弟子は師匠の病気の看護などしないだろう。 だが、緒方はその言葉を黙っていた。 ヒカルの本当の師匠は、今はもういないのだろう。だから、自分に構いたいのだろう。 出来ない何かを緒方にしたいのだろう。 純粋な好意だとは、どうも思えないのが、緒方の性格だ。 それは、緒方があまり、人と言うものを解ってないからなのだが。 ヒカルが向ける純粋な思いが、緒方には今だに解らない。何故、自分だったのか? 『熱で惚けたかな?』 とりとめのない事を考えてしまうのは、病気のせいだ。 緒方はそれ以上の詮索を止めた。 「手袋を買いに?」 「ああ、知ってるか?童話だが」 「知ってるよ。キツネのおかあさんと子供の話でしょ?」 俺、あれ読んだとき、おかあさんは魔法使いなのに、人間が怖いなんて不思議だなあと思ったんだよね。 「だって、魔法で逃げれば良いでしょ?みんなもそう言ってたよ。でも、魔法を使うキツネがいたら、飼いたいなあとかも言ってたな。きっと、そんなんでおかあさんキツネは人間が嫌いなんだね。珍しいからって閉じこめられちゃ嫌だもんね」 成程。 「何でそんな話?どうしたの?」 「・・・夢を見たんだ。昔の夢だ。子供の頃の事だ」 熱が高かったからかな?何だか暖かくて、冷たい夢でな。 その童話が出て来た。 「・・・師匠はおかあさんに会いに行かないの?」 おそるおそると言う顔だ。 おそらく、不味い言葉だと思っているのだ。 「あ〜。まあ、今更だなあ。義母ならいるしな。あの人は良い人だ」 それは、父親の奥さんにはと言う意味あいである。緒方は彼女に母親云々は感じていない。 「会った事はないの?」 「ん?あるぞ。最後に会ったのは、棋士になる少し前だがな」 だが、母とは感じなかった。向こうは母親のつもりであったが。 だから、感傷などまったくなかったが、別れ際に母が泣いてあやまっていた時は、流石に気まずかった。 ちゃんと思ってくれていたんだなと。 だが、それも機上の人となった時、遥か下界に見える海に捨てた。 持っていても使わないものだと。 「そう。良かった」 思考の海に飛んでいた緒方をヒカルの声が呼び戻す。 「何がだ?」 「だって、会えたんでしょ?おかあさんに。会わないって言わなかったんでしょ?生きて会えたんでしょ?」 「ああ、まあな」 「・・・死んだら、会えないじゃん。想い出の中でしか」 ヒカルの言葉に、緒方は苦笑する。 「そうだな。ああ、手紙は来るんだよ。時々な」 そっかあ。 そう言って微笑んだヒカルは、緒方には何だか痛かった。 手袋を買いに。 もし、俺が人間だったら、子ギツネに手袋を渡したかな? そこで、緒方はふと思いついた。 「進藤が子ギツネだったら?」 暖かな色を選んで、渡してやっただろう。 「ああ、そうか。魔法使いはおかあさんじゃなくて、子ギツネの方だったんだ」 彼ならきっと人間とも旨くやっていけるのだろう。 進藤は・・・魔法使いか。 くくく。 「・・・馬鹿馬鹿しいな。あいつは俺の弟子だ」 でも、魔法使いの弟子だったのかもしれないがな。 後日、緒方はアキラに「手袋を買いに」の話をした。 「ああ、知ってますよ。緒方さんが良く僕に読んでくれました」 はて?そうだったかな? 「でも、あれ読むと、緒方さん泣きそうな顔するんですよ。子ギツネが無事に戻れて良かったって」 はて? 「おかあさんに会えて良かったって言うんですよ。もし、会えなかったら、おかあさんは後悔で死んでしまったんじゃないかって」 あれ?緒方さん? 「すまん、トイレに行ってくるよ」 |
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