ヒカルの碁 いろは〜エンドロフィン(脳内麻薬)
エンドロフィン(脳内麻薬)

 楽しい事をしていると、脳内麻薬のエンドロフィンが多大に出るらしい。
 そう言う意味では、目の前の三人は、麻薬中毒だな。
 緒方は密かにため息をついた。
 自分もその一人だとは、何故か認めたくないのだ。

「ふふん、こんな手じゃ、明日にはスヨンに負けるぞ」
 ヨンハの言葉に、ヒカルは噛みつく。
「それを言うなら、ヨンハもだ。アキラとの早碁に負けたじゃん。俺とも」
 むすりとヨンハは膨れているが、リベンジと直ぐに石を持つ。
「次ぎは、アキラとだ」
 あれ?
「お〜い、アキラ?いないのか?」
 緒方は嫌な予感で、台所を除いた。そこには・・・。
「あれ、それ、俺が昨日買ってきたやつ」
 がさごそとビニール袋の中に、アキラが顔を突っ込んでいる。その姿はどう見ても、あの囲碁界のプリンスには見えない。
「・・・良い物めっけ」
 もう、緒方さんたら、用意が良いんだからあ。
 緒方が隠しておかなかったのは、迂闊だった。昨日はばれなかったから、そのままだったのだ。
「って、もう、ないじゃないか!!」
「やだなあ、これは空き缶入れですよ」
 緒方の拳骨がクリティカルヒットをアキラの頭にかました。


「あ〜、痛かった」
「やっぱり、他人の家の物を勝手に食べるのは、駄目なんじゃない?」
 成程、一理ある。
「解りました。緒方さん、今度は断りをいれます。いただきますと」
 ごちそうさまでした。

「・・・」
 血管が切れそうだと緒方は、煙草を揉み消した。


 アキラの性格は一体、どこから変わってしまったんだろう?
 その昔、まだ、せいじたんとか呼ばれ、兄のように慕ってくれていた頃は、こんな親父のごときは欠片もなかった。人の性格と言うのは、社会生活と家庭生活の半々で成り立っているらしい。
 社会生活が早かったアキラは、人より性格形成が早かったようだ。
 少々、歪んだ性格だが。
 しかし、肝の太さは、元々父親譲りの性格なのだろう。
 五冠をあっさりと捨てて、海外に飛び出してしまった父を持つアキラだ。
 筋金入りだ。

 それとも・・・

 脳内麻薬の出過ぎのせいだろうか・・・。

 緒方自身も碁より面白い物などないと豪語する程、碁は好きだ。
 しかし、自分の師匠や弟弟子(アキラ)はその上を行く。ぶっちゃけて言えば、何時でも何処でも、エンドロフィン垂れ流しな状態だ。
 因みに、緒方の一番弟子もそうだ。
 比率で言えば、ヒカルの方がアキラよりエンドロフィンの量は濃いだろう。何せ、碁を憶えて3年もしない間に、プロになった男である。
 その頭の中には、おそらく碁石しか詰まってないのだろう。しかし、弟子としてはヒカルは、手がかからないし可愛いとは思う。
 いや、かなり可愛い奴だ。

 何処かの誰かさんと違って、俺の言い付けはきちんと守る。・・・まあ、見当違いはあるが。
 自分に子供がいたら、こんな感じなのだろうか?
 などと、うっかりと考えてしまった。
『うがあ、自分で墓穴掘ってどうする〜』
 虚しい。虚しい。俺は独身貴族を貫くぞ。


「あれ?師匠、顔が赤いよ」
 ヒカルが緒方の顔を除き込んでいる。
「熱?」
 計ってみるね。

 38.5℃かあ。

「もう寝た方が良いね」
 ヒカルは緒方に手を貸すと、寝室に入った。
「すまんな、進藤」
 ちょっと寒気がするかな?いや、どうだろ?
 そんな緒方に手を貸して、てきぱきとヒカルは寝間着を着せると、くすりと水を持って来た。
「悪い・・・」
 かいがいしい看護に感動していると、アホな答えが返って来た。

「俺ね、師匠が病気なら、溲瓶も介護するよ。ね、だから、寝たきりになっても平気だよ」

 はあ?今、何言った?このプリン頭は?

「トイレに行けないなら、溲瓶を持ってくるからね」

 ・・・このプリン頭・・・。

「・・・寝る」
 ますます熱が上がりそうだ。
 やっぱ、こいつは中毒だった・・・。碁石しか詰まってなかった・・・。
「俺はデリケートなんだな。あんな中毒患者が3人も相手だったんだ・・・」
 あくまで、緒方は自分も中毒だと認めたくなかった。

 そして、夜は更ける。

「ねえ、緒方さんて最近柔いよね」
「年寄りの仲間入りかな?」
「ええ〜、そんなに早く老けたらやだよ〜」
 以上、アキラ、ヨンハ、ヒカルの言葉だった。
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