ヒカルの碁 いろは〜やろうかい
やろうかい

 野郎会と言うものがある。発起人は不明だが、どうやら、面倒見の良い森下門下の若手衆らしい。
 この野郎会、名前の通り野郎しかいない。
 野郎しかいない会なので、野郎会だ。
 まあ、ごたくは止めて、本題に移ろう。

 野郎会の主な活動は、研究会だ。と、言っても囲碁の研究会ではない。
 そのものずばり、野郎の研究会だ。

 【人生の悩み多き若人(わこうど)よ、ここに集え。】が、スローガンだが、ぶっちゃけて言うと、人の悩みを肴に、盛り上がろうと言うだけの会だ。

「人の悩みを肴になんて、何て不謹慎な」
 アキラの言である。
「まあまあ、人生の美酒は旨いんだよ」
「あ、白川先生。・・・成程、旨いですね」
 グラス一つで懐柔出来るアキラは、あっと言う間もなく寝返った。
「いやあ、悩みはみんなで助言すべきですよね」
 あはは。
 彼に悩みはないのだろう。いや、些細な事では悩まない人間なのだろう。


 さて、野郎会。
 本日のお題は、「GFの誕生日プレゼントを決めろ」だ。

「う〜ん、そうだなあ。無難な所で、アクセかな?ほら、ネックレス」
 この野郎会において、天使の微笑みのヒカルが提案する。
 天使の微笑みと言っても、中身は天使ではない。
 進藤 ヒカルの天使スマイルは殆どが営業用だ。しかし、天然も混じっている。
 それが、爺、中年、女子供の心をくすぐるらしい。
「おう、ネックレスか。しかし、好みがあるじゃないか?」
「それを言うなら、花にも好みがあるじゃん」
 前者が和谷で、後者が芦原だ。

 何故、塔矢門下がここにいるのか不思議だが、芦原はおもしろい事は何処でも行こうと言う、開拓精神の持ち主だ。アキラを引き連れ、やって来ているのだ。
「う〜ん、好みを無視するなら、何でも良いんですけどね」
 白川だ。
 相変わらずな微笑みだ。こちらは通り名が、聖母の微笑み(静かなる実力者)。
 何故、聖母なのかと言うと、暖かい微笑みのわりには、切り捨てがばっさりな所である。溜まりに溜まると、ばさっと胴から首が真っ二つだ。
 慈悲も何もあったものじゃない。(仏の顔も三度までを地で行っている御仁だ)
 ヒカルと違うのは、この点である。
 前者は無意識が強く、後者はわざとが強い
 まあ、そんな面々でも、野郎会と言うのは平和なところで、皆が顔を出すには、楽しい場所だ。

「まあ、無難な所で、映画とケーキか」
 おいおい、それはデートコースだろ?と、すかさずの突っ込みの中、冴木の声が響く。
「違うぞ!それは、しげ子ちゃんコースだ。最近、それに、プチ土産がついてるんだ」
 ああ〜!冴木さんも〜。
 おお、和谷ああ〜。
 がしりと抱き合う兄弟弟子。暑苦しい事この上ない。
 何で、暑苦しいかと言うと、ここが和谷の別荘、もとい、一人暮らし部屋であるからだ。こんな狭い部屋に、何と野郎7人が入っているのだ。
 暑苦しいのレベルではない。
「ん、そうだ。塔矢君は何をあげます?GF」
 白川の問いに、これはお酒ですと言う缶にストローを突き刺しているアキラは、にこりと笑いを返す。
「僕、GFいませんけど、あげるなら、ダースでこれですね」
 にこにこ。
「そうですか。20歳以上ならOKですもんね」
 にこにこ。
 軽くスルーした兄弟子を、抱き合い慰め合う弟弟子二人は、羨望の目で見る。
 何故、白川に「奢って」とはしげ子ちゃんは言わないのだろう・・・。

 おおう。あの兄弟子に・・・なりたくはないが。

「う〜ん、どうも話が不発ですね。そうだ。過去に彼女にもらった物に取り替えましょう。さあ、ご自慢出来る方はいますかあ〜」
 白川の声に、門脇が手を上げる。
「ふふふ、俺は自慢出来るものあるんだな」
 得意げな門脇の声に、皆、耳が大きくなる。
 何だ、何だ?
 門脇が中指を突き出し、それに反対の拳を被せる。
「これ」
 その下品なパフォーマンスに、皆はブーイングの嵐なのだが、ヒカルはきょとんと考え込んでいる。

「ねえ、門脇さん、それ、何?」

 おそるおそる門脇が振り返る先には、天使の微笑み。
 営業用ではない、天使の微笑みである。
「指に被せるもの・・・う〜ん、指輪?」
 それとも、手袋かな?
 手を繋いでるじゃないよね。

『進藤・・・』
 周りの内心のため息に、ヒカルが困ったように眉を寄せる。
「何か、不味い事言った?」
 その時、ドアが開いて、緒方が入って来た。
「おう、野郎ども、やってるな」
「あ、緒方先生〜」
「おう、進藤、どうした?」
「あのね、聞きたいんだけど」
 ヒカルは指で先程の形を作り、門脇を指さす。

「何だと思う?」
 緒方は灰皿をもらうと、煙草に火をつけ、一服すると天井を眺めた。
「うむ、指を覆う。成程な」
「ねえ、何だろう?先生なら解るだろ?」
「ああ、解るぞ」
 やった!とヒカルは無邪気なものだ。

 緒方が中指を立てる。
「まず、これが門脇君だ」
 そして、ぱっと開いた反対の手をそれに被せ、握る。
「ほれ、解ったかな?答えは」
 ヒカルが丸く目を見張る。
「解った!」
「そうか」
「コートでしょ?緒方先生。ね、門脇さん」
 緒方はヒカルの頭を撫でると、「正解」だと笑った。


 そんなやり取りの後で、アキラは缶のストローを出し入れしている。
「あはは、おもしろい〜」
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