ヒカルの碁 いろは〜ラスト!!
ラスト!!

 俺の友人 進藤 ヒカルは、変わり種だ。
 まあ、どう変わってるかと言うと説明に困るのだが、近況だけでも確実に変わっている。
 あいつは最近、緒方 精次 (現在二冠)の弟子になった。
 まあ、その経過も巫山戯たものだ。
 何と、弟子にするか否かを賭け碁で決めたと言うのだ。
 で、勝っちまったわけだ。
「緒方先生はいい人なんだよ」
 進藤の言葉はかなり納得の行く話だ。
 確かに、良い人だろう。
 あいつなんかを弟子にしてくれるんだから。

 実は俺の師匠の森下先生に、あいつは弟子にして欲しいと頼んだらしい。
 その返事が、
「和谷で最後の弟子にしてえんだ」
 だと。
 流石に同期で出世頭の進藤を弟子にするのは、俺の手前、遠慮したいらしい。
 俺だって、あいつが森下先生の弟子なんて複雑だ。
 俺は実は何処かで進藤を下に見ていたと思う。
 もちろん、実力の事ではない。
 囲碁界の事を何も知らないし、俺より年下だ。おまけに何だか可愛いのだ。
 だから、弟分として接していたのだが、ある日を境に、まるきり変わってしまった。
 いや、変わったんじゃなくて、深みが出た感じがする。
 今まで目立たなかった、進藤の中の静かな部分が表面に滲んできたようだ。
「随分と大人っぽくなったよな」
 口を開けば、まだ、子供っぽいが、確実に碁は深みを増している。
 最近では、若手の双璧と、塔矢 アキラと供に並べられている。
 悔しいが、それは事実だ。あいつらはリーグ戦にまで駒を進める実力の持ち主なのだ。 だが・・・。


「何だ?これ」
 俺は目の前の記事に唖然となる。
「進藤と塔矢・・・緒方先生・・・」
 が白スーツで並んでいる。て、言うかまるでグラビア写真のようなポーズで決めているのだ。
「北斗杯優勝のお祝い?」
 下に小さく進藤のコメントが乗っている。
【このスーツは師匠から北斗杯優勝祝いとしていただきました。塔矢の服も同じです。 優しい師匠です】
 どう考えても嫌がらせだろう。緒方先生の。
 しかし、進藤は何故か盲目的に緒方先生を尊敬している。
 いや、尊敬と言うよりは親愛だろう。尊敬している人物にあれほどの傍若無人はしないだろう。
 何せ、棋院の中で手を繋いでいたのには驚いた。
 まるで、同伴出勤の体な姿だ。
「何で手なんか繋いでるんだ?」
 と、聞くと。
「え?だって、せっかく一緒なのに、何かもったいないから」
 何がもったいないのか謎だが、進藤は心底二人でいる間を楽しんでいるらしい。



「おい、進藤。あの服」
「ああ、あれ?かっこいいでしょ?」
 そんな進藤に俺は正直に言ってみた。
「いや、どう考えても嫌がらせじゃない?」
「そうだね」
 進藤が肯定の返事をするのに、俺は心底驚いた。
「お前もそう思うのか?」
「うん、まあ、白のスーツはそうだと思うけど、師匠は俺の事を好いてくれるから、どんな物を貰っても俺は嬉しいよ。それこそ、パンツくれても嬉しいよ。だまし討ちのような形で、弟子になった俺を最初から丁寧に扱ってくれたんだよ。初めて部屋に入れてくれたり、携帯買ってくれたり」
 差し引きしたって、おつりがくるよ。
 お前、解っていて喜ぶんだなあ。
「やっぱ、お前、凄いよ」
「そうでもない。俺は師匠に色々無理言ってるしね」
 こんなの楽なもんだよ。
 師匠の冗談に付き合うなんてね。

 じゃあね。と、去って行く進藤を見ながら、俺は複雑だ。
 どう考えても師匠と弟子の関係じゃない。
「成程ねえ」
 ふいに後から声がかかる。
「お、塔矢?」
「あれは僕を茶番に付き合わせる為の演技とはねえ。おかげで僕は全国にあの姿をさらしてしまったわけだ」
 と、深いため息だ。
 確かに同情はする。
「お前の素行に対するリベンジだろ?」
 塔矢は嫌そうな顔で、俺を睨んだ。
「素行?僕の素行は普通だよ」
 普通の男・・・まあ、普通と言えば普通だろう。品行方正ではある。世間様にはと言う限定があるが。
「で、実の所はどうなんだ。進藤は」
 塔矢は肩を竦める。
「そりゃあ、大喜びだよ。あんなスーツもらっても頬を染めてはしゃぐんだから。あれは演技とかじゃないよ。天然だよ」
 苦々しい顔だ。
「お前もとんだ兄弟子とその弟子を持ったもんだな」
「まあ、そんな事は塔矢門下では慣れっこでね。癖のつよ〜い輩ばかりだからね」
 そりゃあストレスも溜まるだろう。
「で、相談なんだけど、一緒に飲みに行かない?もう、ストレス溜まって溜まって」

「却下させてもらう」

 まったく油断も隙もないぜ。
 あやうくはめられる所だった。
「そう、しょうがないね。じゃ、他を当たろうかな?今度は泣き落としでもしようかな?」
 塔矢門下・・・
 どこまでも強かな気風を持つ、恐るべき門下だ。
「あ、白川先生!今日、食事をご一緒しません?」
 目にも留まらぬ早さで、白川先生を塔矢はゲットした。
「良いですね。あ、和谷君も如何ですか?」
 結局、この運命なのか?俺って。
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