ヒカルの碁 いろは〜何やこれ
何やこれ?

 ヒカルとアキラの前に、でで〜んと写真が広げられている。緒方の置き土産だ。
 例の白スーツの写真だ。
 緒方の自宅で取られた写真は、プロが写しただけあって、なかなかの出来栄えだ。
 立ちポーズまで指定されてしまい、アキラも泣く泣くそれに従ったのだ。

「はい、もう少し、足を開いて」
 結構無理なポーズであった。だが、写真になってみると、
「なるほど、大胆でないと上手い写りではないんだなあ」
 しみじみと感心はする。だが、自分が白のスーツなのは・・・。
『やだなあ・・・』
 隣で無邪気に喜んでいるヒカルが心底、羨ましい。
 ああ、麗しい師弟愛に僕も泣けてくるよ。
「おや?これは、何?」
 そう言って覗いてくるのは、院生師範の篠田だ。
「あ、篠田先生。これは、俺の師匠が俺達にくれたプレゼントです。北斗杯記念」
 ヒカルの言葉に、篠田は頷く。
「優勝ですものね。最後ですしね」
「そうなんですよ♪」
 鼻歌でも歌いそうなヒカルに対して、アキラは複雑だ。
 いくら記念でも、これは頂けない。いや、あの白スーツはしっかりと自宅の箪笥に仕舞われているのだが。
 ぐるぐると回っている思考で、ふうっと深いため息の後、とんでもない話がまとまっていたとは、アキラ一生の不覚だった。


「じゃあ、借りていきますね」
「うん、篠田先生。何時でも良いですよ。返却は」
 バイバイとヒカルが手を振っている。
「は?あ、写真は?」
「あ、篠田先生が持って行ったよお。みんなに見せるって」

「・・・くうう・・・」 だん!

 アキラの握り拳は、壁の中へと消えた。


 さて、哀れなアキラは放っておいて。
 篠田は宝のアイテムを手にいれた。(もちろん、本人はそんな気はないが)
「みんな、喜ぶだろうな」
 まあ、写真だけ見れば、すこぶる良い写りの二人だ。例えそれが、白のスーツを着用でも。
 反応は案の定で、さっそく、雑誌の写真に使いたいと申し出があった。
「プロが撮ったそうですよ。良い出来でしょ」
「へえ、緒方さんのプレゼント?そう言えば、進藤君は緒方さんの弟子でしたね」
「お、これなんか凄く良いですよね。緒方さんと進藤君と塔矢君。兄弟子と弟子。これを使わせてもらいましょう」
 何やら・・・色々・・・あるらしい。


「進藤、君はあんな服をもらって何とも思わないのか?」
 おそらく答えは解っている。
「え?嬉しかったけど?」
 そうだろうね。
「緒方さんとお揃いだぞ。デザインこそ僕と君では違うけど」
 アキラの服はダブルで、進藤はシングルだ。ネクタイはグリーンと薄い紫。
「お揃いって何か、凄く嬉しいよ。同じだよ。同じ」
 駄目だ。これは・・・。
「まあ、僕はあれは箪笥の肥やしにさせて貰うよ」
「そうだな。結婚するまで、置いておくのも手だよな。む、でも、師匠とお揃いしたいしなあ・・・」
 アキラが転ける。
『な?何だって?結婚式の?』
 進藤、本気か?本気なのか?まさか、緒方さんと結婚するつもりじゃないよな。
 あんな変態と結婚なんて、誰が許しても僕が許さない。
 思考があまりの事に暴走しているアキラだ。

「ふざけるな!」

 アキラの怒声にヒカルは目を向く。
「?何、怒ってるんだ?」
「あ?僕は今、何を?」
 やっと思考の暴走が止まった。
「すまない。何でもないんだ・・・」
「うん・・・なら、良いけど。独り言は止めろよな。びびったぜ」


「な?何やこれは?」
 社は雑誌を開けて、目を向く。
 そこに写っているのは、件の白スーツの三人だ。びしりと決めた姿に、社の顎もたれる。
 あんぐり・・・。
「何しとるねん?あいつら」
 ぶつぶつと文句をたれていると、自分宛に小包が届いていた。
「?何やねんやろ?」
 差し出し人は、緒方 精次。
 大きさから見て、どうも・・・。
「白スーツやあらへんやろな」
 複雑な気分で、箱を開けてみる。
「・・・確かに白スーツやあれへんなあ・・・」
 社はぱたりと箱を閉じた。
「やけど、緒方さん。こんなの何処で着れ言うんや?」
 社の両手の下にある箱の中には・・・。

 黄と黒のストライプのスーツが入っていた。
「俺、甲子園、行かんのやけどなあ」
いろは物語目次 ねーねー→ラスト