| ヒカルの碁 | いろは〜つれづれなるまま |
| つれづれなるまま 賑やかな一日だった。 ヨンハは相変わらず終始、ヒカルをからかっていて、アキラはそれに溜息とともに非難の目を向けていた。 自分がこけ降ろすのは良いが、ヨンハにこけ降ろされるのは感に触るのだ。 そんな、三人を見ながら、緒方とパクは打っていた。 「緒方先生は、塔矢 行洋の弟子ですよね」 パクの言葉に、緒方が顔を上げる。 「ええ、そうですよ」 「じゃあ、進藤君とは何処で知り合ったんです?」 緒方は顎を撫でる。最初の出会いと言えば、子供囲碁大会だ。 それから、師匠の碁会所の前。 院生試験の推薦。 師匠の入院先の病院、そして、水明館の夜。 そして・・・。 「話せば、長いです。まあ、ガキの頃から縁があるんですよ。こう言うのも運命と言えるのかもしれません」 「子供の頃から?」 「そう、確か、小学生でした」 緒方は、ヒカルの小学生の頃を語り出した。緒方も少々の韓国語は話せるのだが、アキラが補足で通訳をしてくれた。 散々した話だが、二人には思い出深く、何時までも不思議だ。 何故、進藤があれほど囲碁が旨かったのか、それは今だに謎なのだ。 「で、まあ、アキラ君もコテンパでした」 ほうほう。それは凄い才能ですね。 パクは素直に感心したのだが、 「でもね、次ぎにアキラ君が対局した時は、素人同然なんですよ。でも、それから、本当に2年足らずで、プロになってます」 パクが目を向く。 「進藤の謎は今まで、誰一人解いてません。謎が多いんです。鬼のように強かったり、素人同然だったり」 「それは、今もですか?」 「今は大した謎はないですよ。どちらかと言うと」 「ウェ?」何故? 緒方とアキラは顔を見合わせると、笑う。 「今では強いだけですから」 その答えに、パクは呆れ顔だ。 確かに、進藤 ヒカルは強い。ヨンハと並んでも遜色が無いほどには、強い。 しかし、何と言う巫山戯た経歴なのだろう。 「何処で碁を憶えたんですか?」 緒方とアキラは肩を竦める。 「さあ。それに、進藤に本格的に碁を教えた人物は、誰も知りません。まあ、強いて言うなら・・・」 ごくりとパクの喉がなる。 「強いて言うなら?」 「・・・あ、お茶飲みませんか?」 意気込んでいたパクが転けた。 「あの・・・続きを・・・」 「お茶いりません?」 「いりますが、続きを・・・・」 緒方はパクの前に、紙コップを差し出す。 「続き?」 「強いて言うならの続きですよ」 「ああ、そうですね。ん〜。プロじゃない人が師匠ではないかと言う事です。我々の世界も結構狭い。その割には、進藤の師匠だと言う人はいない。日本人じゃないかもしれないし、日本には住んでないのかもしれない。もう、この世にはいないのかもしれない。まあ、今の師匠は俺です。俺が貰ったんです」 パクは納得のいかない顔だ。 そりゃあ、そうだろう。 緒方とアキラは内心、くすくすと笑う。 自分達だって、以前は随分と悩んだのだ。猛烈に力をつけて追い上げてくる人物の師匠は誰なんだと。あのアンバランスは何なのだと。 しかし、過剰にずれていたそれは、今では一つになっている。 進藤の実力は、これ以上無いほどに安定している。 パクはぼんやりと、進藤を見つめる。相変わらず、ヨンハと軽口を叩いている。 そこで、おいでおいでと緒方が手招きをする。 「え?俺?」 そう、進藤。 「お前の師匠は誰だ?」 すかさずの返事が返る。 「緒方先生に決まってるじゃん。それ以外いないよ」 「じゃあ、お前に囲碁を最初に教えたのは誰だ?」 「ああ、それは、白川先生だよ。ね、白川先生」 くるりと振り向くと、白川が欠伸をして、部屋から出てきた。 白川は緒方の寝室で寝ていたのだ。 「何?」 「白川先生、囲碁教室で俺に碁のルール教えてくれたよね」 白川は暫し考えていたが、懐かしそうに頷いた。 「ええ、そうでしたね。シチョウを教えましたよね。あの頃は、定石も知らなかったのに、今や、国際棋士ですからね」 ふふと、おだやかな口元があがる。 最初が、白川で今が緒方・・・真ん中はない?いや、白川が教えていたのかも。 「白川さんが、進藤君の師匠なんですか?」 パクは納得がいかない。 「え?違いますよ。僕は囲碁教室の講師で、2回だけ進藤君に教えたんですよ。次ぎに会った時は、かなり強くなってました。それから、直ぐに僕の師匠の森下先生が主催する研究会の門下になって、その頃には院生でしたね」 それがたったの二年の間です。 『ネ?!』え? 「そうそう、僕の弟弟子の和谷君と同時にプロ試験に受かりました。確か、研究会に入った年でしたね」 緒方さん、コーヒー貰いますよ。 おう、白川。俺にもくれ。 「パクさんも飲みませんか?」 緒方の薦めを聞いているのか、いないのか。黙って頷く。 アキラとヒカルは既に、喧噪の輪に戻って、検討を繰り広げている。 「まあ、つれづれに考えるのが良いんですよ。進藤の事は」 「そうですね。緒方先生」 その言葉が、パクの耳に入ったか、否かは謎だ。 『いや、つれづれでも考えたく無いです』 パク、投了の瞬間だった。 「あ、ありません」 |
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