ヒカルの碁 いろは〜そんな・・・
そんな・・・

 さて、次ぎの日の北斗杯。
 日本の優勝は決まっているのだが、控え室では熱い検討が繰り広げられていた。
 そこに顔を出したのは、塔矢 行洋ならぬ、日本の二冠。
 緒方 精次
「よ、やってるな」
「あ、師匠〜」
 椅子を蹴って、ヒカルが抱きつくと、緒方はその頭をばふばふと叩いた。
「やったじゃねいか。棋譜を見せてもらった。良い出来だ」
 えへへ。
 その姿は周りには、砂吐きもののゲロ甘である。
 微笑ましいのだが、緒方とヒカルと言う、異様な組み合わせの為、観客はどうも引いてしまって言葉がない。
 そんな中でも、アキラは平気に話かけているが。
「お熱い仲は結構なんですけど、そろそろ離れてくれません?僕と進藤は検討中なんですよ。返して下さい」
「お、すまんな。アキラ君」
 緒方はヒカルの首根っこを掴むと、ぐいとアキラに差し出した。
「焼き餅焼かなくても良いでしょ?塔矢君」
 白川だ。
「焼き餅じゃないですよ。ただ今は、神聖な北斗杯の最中です」
 つんとすましたアキラに、白川は苦笑する。
『昨日、一人でご機嫌に祝杯を挙げていたのに?』
 それを耳元で、こっそり告げたのだが、アキラはにやりと笑ったきりだ。
「それも神聖な儀式ですよ」と。

 さて、そんな姿を見ているパクと楊海の前に、緒方は席を貰った。
 すかさず、楊海が切り出す。
「あ、緒方さん、進藤君が賭け碁に勝って、貴方の弟子になったって本当ですか?」
 ポットからお茶を注いで飲んでいた緒方は、首を傾げる。
「誰に聞いたんです?」
 楊海は白川を指さす。
「・・・ああ、白川からですか。そうですよ」
 その時のパクと楊海の顔は見物だった。
 パクはあんぐりと、楊海はにやにやと如何にも楽しそうである。
「まあ、驚く事もないでしょう?こいつは元々強いし、あんた方の国の代表、スヨン君やチャオ君なら、俺に勝てるでしょう?」
 それはそうかもしれないが、それで勝ったからと言って、弟子になりたいとは言わないだろう。
「実は俺もこいつが弟子になるのは、渡りに舟だったんですよ。弟子を取れ取れとせっつかれてましてね。森下さん、進藤の研究会の代表がね、俺の所に寄越してくれたんですよ」 
まあ、はめられたのだが、その点には感謝している。
『進藤は楽な弟子だ』
 と、緒方は思っている。まあそれは、碁を教えなくて良い点にのみだが。
 控え室の雰囲気は、何だか中間色である。
 暑いか寒いのか 、微妙だ。捕らえ方によっては、暖色と思う面々は楽しそうに、モニターを検討している。
「ま、押しかけ弟子なんでね」と、緒方は肩を竦めた。
 そんな割には、随分と仲の良い事だ。
「緒方さんと進藤君は仲が良いですよね。緒方さんの部屋に初めて入った人は、何と進藤君なんですよね」
「おい、何処からそれを聞いた?白川」
「あれ?やっぱりですか。カマをかけてみたんですけどね」
 やられたと、緒方は顔を赤くする。
 何も、疚しい事などないのだが、どうもヒカルの日常になると赤面ものだ。

 理由・・・他人の生活道具が自分の家にある為だ。
      歯ブラシ、パジャマ、一日分の着替え等々・・・。

「まったく、進藤君は特別なんですから」
 にこにこ笑い白川は、トドメをぐさりと刺した。が、対する緒方も開き直りである。

「ああ、そうだ。俺は進藤だけには甘いんだ」

 お前も甘いだろう?行洋先生も甘いしな。アキラ君だってそうだろ?
「ああ?まあ、そうですねえ。だって、進藤君だし」
「そう言えば、僕も甘いですね。まあ、進藤だし」
「そやな。進藤やし」

 すかさずの返事に、パクも楊海も呆れているが、呆れ具合は違う。
『何で?』
『良いねえ〜。日本のアイドル、進藤君か』
 楊海はモニターの中の中国棋院のアイドルの一手を見て、手を上げる。
「決着が付きましたね」
 スヨンの勝ちだ。
「強いね。スヨンは」
 ヒカルが素直に、感想をのべると、一同が頷いた。
「やあ、でも、あいつも進藤贔屓やからなあ。いっつも、進藤ってうるさいしなあ」
 ぶしゅ〜。
 膨らんだパクが又、凹んでしまった。


 さて、北斗杯も終わった翌日、どうしても帰国しなければいけない中国面々以外、韓国の三代表と団長のパクは、緒方のマンションの前にいた。
「こんにちわ」
「ああ、どうぞ。上がってください」
 セキュリティーが解除されて、ドアが開く。
「へえ、結構、良い所だね」
 スヨンの感想に、みんなも同意する。結構、浮かれている面々だ。
 だが、
 ピンポ〜ン!のチャイムにドアを開けた顔を見て、パクは腰を抜かしそうになった。
「何でいる!!」
 当の相手はにこやかに、
「休暇〜」
 と、韓国語でのたまった。
「驚いた?」

「驚いたよお〜。ヨンハ」

 ささ、入って入って。
「お、いらっしゃい。びっくりした?俺もびっくりしたよお。師匠は知ってたんだけど、ヨンハの奴、こっそり北斗杯を覗きに来てるんだぜ。で、昨日から、塔矢と俺と社で打ってるんだ。もう、驚いたのなんのって」
 俺達が勝ったから、リベンジだってうるさいのなんの。
 一人で三人相手だぜ。
 でも、やっぱ強いよなあ・・・。

「どうしたの?パク先生」
「いや、ちょっと胃が・・・」
 日本棋院のアイドル(仮称)は、可愛い笑顔でいたわりをかけてくれた。
「お大事にね」
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